休日 La Mauricie National Park kayak-camping 初日

朝6時頃起きて、準備を済ませて7時前に家を出た。感謝祭の休暇を含めた三連休(10月10日−12日)に、前の週に引き続きモントリオールの北東方向に車で2時間の距離にあるモリシー国立公園に行くことにした。他の候補はオンタリオ州アルゴンキン州立公園があったのだけど、ここからだと500km離れていて少々遠くて諦めた。狙いは紅葉を愛でることと、ポーテージ(カヌー・カヤックを担いで歩くこと)をすること。そう、日本だと川の堰堤や小滝などの障害物を避けるためにポーテージすることはあっても、湖から湖へとポーテージしながら旅できるようなフィールドはない(と思う)。せっかくポーテージのコツもつかんだので、それを再度やっておきたかった。コースは8月初めと同じ、Lac Soumireから入って、Lac Giron、Lac Dubon、Lac Dauphinaisを越えて、Lac des Cinqに至り、戻ってくるもの。ただ8月との違いは一泊二日から二泊三日と長くなったこと、寒くて人が非常に少ないであろうこと、紅葉であること、など。長くなった分、前回まわれなかったLac des Cinqの西側も回りたいし、また東側の最果て部分も訪れたいと思っていた。

9時前に国立公園の入口の受付に到着。既に受付は開いていて、手続きを済ませる。対応してくれたレンジャーの方は、おぉー、この場所に(この時期に)行くんですか、ほとんど人いないですよ、大丈夫ですか?くれぐれも気をつけてください、と言われ、装備面でいろいろ確認された他、明日は雨であること(パソコン画面で最新の天気予報を見せてくれた)や、クロクマの活動が活発な時期なので、食料品や調理器具はもちろんのこと、歯磨き粉等、とにかく匂いのするもの全部ポールにぶら下げてください、と念を押された。この公園に来るのは11回目で、この湖に行くのは2回目なんですよ、と話をし、先週クロクマに会った話をして、さらに指摘された装備を全部持っている旨を話したところ、あなたなら大丈夫ですね、良い旅を!と太鼓判を押され、ちょっと嬉しくなりながら建物の外に出た。
車で30分弱でLac Soumireの入口の駐車場に到着した。木々は先週よりもずっと色づいている。

駐車場には他には一台も停まっていない。レンジャーの方も驚いていたから、寒い中、明日の天気が悪くなると知ってこの場所に行くのは余程物好きということなのだろう。寒くて、木の階段部分は凍りついていて滑りやすくなっていた。強い風が吹く中、カヤックを組み立て、荷物をザックに詰める。9:45。さてと、と一息気合を入れてから、ザックとカヤックを担いで、500m離れたLac Soumireに向かう。
先週の反省を踏まえ、今回新たな装備としてネオプレインゴム製のカヌー・カヤック用の長靴がある。100ドルするので高いなーと思っていたのだけど、先週の水の冷たさを考えると背に腹は代えられない痛感し、モントリオールのMECに行くと、サイズは限られたものの安売りしていて60ドルで手に入れることができた。また、8月に来た際にはポーテージポイントにはヒルがたくさんいて、足を入れているのがやや気持ち悪かったのだけど、今回は水温が低いことに加えて、長靴なので、この点も安心だった。
さて、カヤックに荷物を詰め込み、出発の準備を済ませる。このカヤックはインフレータブルなので、見た目のボリュームほどには荷物は入らない。備忘録も含めて荷物の構成を書いておくと、先端部分にはエアポンプ、その手前にガスストーブや鍋等の調理器具や食料等が詰まった30リットルの防水バッグ、その防水バッグの上に空の折りたたんだ70リットルのポーテージバッグ(歩くときはこれに他の防水バッグを詰めて背負っている)、座席の下には2m×1m×1mmの超薄手の銀マット、座席のすぐ後ろには靴や行動食やiPadを入れた小さな薄手のザック、その後ろ側にはテントやタープ、着替えや寝袋や折りたたみ椅子やハンモックを入れた35リットルの三角錐型の防水バッグが入っている。またカヤックの上には前方にロープとコックピット内の水を取るためのスポンジと防寒用のネオプレインの手袋を、後方にはファーストエイドキットやヘッドランプ、トイレットペーパー、雨具、刃物、水筒、非常時の衛星通信機器などすぐに出せるようにしておきたい物を入れた10リットルのオレンジ色の防水バッグに加え、スリングとカラビナ、ビルジポンプ、パドルフロート、予備パドルがくくりつけられている。さらに身につけたライフジャケットには、財布・鍵等の貴重品、携帯電話、GPS、笛、ナイフ、カヤック先端のGoProを操作するためのリモコン、防水カメラが収まっていて、さらに小さな防水のポシェットには、日焼け止めやムヒ、地図、クマスプレー、双眼鏡等が収まっている。そして首には愛用の防滴のズームカメラ(Fujifilm FinePix S1)をぶら下げているという出で立ちだ。

さて、出発10:15。さすがに水は冷たい。安全を祈願してから漕ぎ出す。向かい風だけどそれほどきつくはない。紅葉の森が美しい。夏に一度訪れた場所とは言え、また違った表情の湖はとても素敵だ。
岸際の動きに気がついてよく見ると、三頭のカワウソを見つけることができた。うち一頭は大きな魚を捕られたばかりらしく、その魚を咥えて弄びながらのんびりとくつろいでいる。また他の2頭はじゃれ合っていた。

が、僕に気がつくと速やかに湖に潜って、その後三頭揃って泳ぎ始める。一頭は魚を飲み込もうと必死なのだけど、大き過ぎて飲み込めず、苦労している。カワウソ達は激しく息をしながら、こちらを睨みながら、泳ぐ、潜るを繰り返していた。

そう睨むなよ、こちらは会えて嬉しかったよ、お邪魔したね、じゃあね、と呟いてから、さらに先へと進んだ。
10:35に上陸。

カヤックの中から荷物を引っ張り出してポーテージバッグに詰め込む。正確には、まず30リットルと35リットルの防水バッグを70リットルのポーテージバッグに詰め込み、10リットルの防水バッグをポーテージバッグの背面にくくりつける。その後30リットルの薄手のザックを最初に腹側に背負ってから、ポーテージバッグを背負う。その上で、パドルとシーソック(コックピット部分以外に水が入らないようにするための靴下型の巨大な防水袋)を後部荷室に詰めたカヤックを担いでポーテージを開始する。お腹側のザックを先に背負う(腰ベルトもきちんと留めるのがコツ)のは、逆だとポーテージ中にずれ落ち始めて歩きにくくなるのでこれを避けるためであり、10リットルの防水バッグをポーテージバッグの背面につける(上面ではない)のは、ポーテージバッグの背が高くなるとカヤックと干渉して担ぎにくくなるためだ。慣れると5分ちょっとでこのアレンジが終わる。
さて、隣のLac Gironまで500m歩く。クロクマを警戒して今回はクマ鈴を持ってきたので、チリンチリンという澄んだ鈴の音が森の中に響く。10:50にLac Gironに到着。夏よりも水位が随分と下がっていて驚いた。カヤックに荷物を詰め込んで、11:00に出発。
最初の部分は水中に隠れ倒木もあるので要注意。向かい風の中を漕ぐ。11:20に上陸。

この先は、Lac Dubonまで1kmのポーテージ。11:45過ぎにLac Dubonに到着。喉が渇いて水筒の水をごくりと飲む。再度カヤックに荷物を詰め込んで12時前に漕ぎ出した。
Lac DubonとLac Dauphinaisの間は、ポーテージするほどではないのだけど、ビーバーダムが二つあって、そこはカヤックと荷物を担ぐ必要がある。さらにそのビーバーダムに囲まれた30mほどの区間は今回は非常に非常に浅くて、カヤックの底がつかえ(夏はもう少し深かったのですが)、水中の泥に足を取られながらごりごりと押しながら何とか進んだ。ここはたった30mだけどいっそのことポーテージした方が楽だったかもしれない。
12:20にLac Dauphinaisを出発。

最初は浅い区間が続くので慎重に進む。そう僕のカヤックはインフレータブルなので、ダメージを受けないように浅いところは気を使い続けている。
広いところに出ると向かい風がきつくなった。岸からあまり離れないところを漕いで行く。色づいた森が美しい。

遠くの湿原で何かが動いた気がするとすぐにカメラを構える。ムースに出会いたいのだけど、なかなか姿を現してはくれない。さらに広いところに出て、向かい風の方向に波打つ湖を横切って反対側の岸際にたどり着く。対岸に夏にキャンプしたテントサイトが見える。さらに進んでいくと向かい風が収まって、快適なパドリングを楽しめた。全てが美しい。
13:30に上陸。

この先Lac des Cinqまで400mポーテージ。
Lac des Cinqの水位も随分と下がっていた。14時に出発。誰もいない大きな大きな湖を一人で漕いで行く。どこまでもたおやかに広がる紅葉の森。自然と文部省唱歌の「もみじ」を口ずさんでいた。湖の西側へと向かう。広い湖だ。ここを独占している(今日はここまで誰一人出会っていない!)という満足感が素晴らしい。

風は冷たかった。岸から離れ過ぎずに進んで行く。

14:45に今宵泊まるLac des CinqのNo.1のキャンプサイトに到着。対岸には管理用の小屋があるが人は誰もいないようだ。荷物を出してテント・タープを張る。

明日は午前中いっぱい雨の予報なので、おそらくは明日のお昼まではここに滞在するのだろう。このエリアは焚き火禁止エリアだけど、案の定、キャンプサイトの中央には大きな大きな焚き火の跡が残っていた。僕は焚き火が大好きだし、たとえ禁止されている場所でも非常時に焚き火をすることは仕方がないと思っている。でも、全くルールを守ろうとしないのは、やっぱりちょっとひいてしまう。北米大陸バックカントリーエリアではルールが守られているイメージが強かったのだけど、これがカナダケベック州の現実で、そんなイメージは今や綺麗さっぱり無くなっている。
カヤックキャンプサイトの近くに運び上げ、折りたたみ椅子に座って一息ついた。止まっているととにかく寒い。焚き火がこの上なく恋しくなる。ハンモックを吊るして横になったのだけど、足先が冷えきっていて、かなり辛い。気温は4℃ぐらいだろうか。テントの中から寝袋を引っ張り出して、寝袋に包まってハンモックの上に横になる。本を読みつつ、時々湖を眺めつつ、ハンモックに寝そべりつつ、ダラダラと過ごす。
17時半を過ぎて、晩御飯の準備に取り掛かる。と言っても、大してやることもないのだけど。冷えた体にビールが効いた(かなり寒くなった)。焚き火の代わりに今回はユニフレームのネイチャーストーブと木炭を持ってきていて、火をつける。

木炭を使うのは、外来種を持ち込まないため(公園外から薪を持ち込むことは禁止されている(焚き火をする際には公園内での薪の購入が求められている))。このネイチャーストーブは、この標準サイズとラージサイズの2つを持っているけど、軽量コンパクトで、でもそれなりに楽しめる大きさがあって、簡単に火がついて、真っ白になるまで燃やし尽くしてくれ(わずかに残った灰は持ち帰る)、焦げた跡等を何も残さないかなり優れものだ。僕はこれは何かと問われれば、バーベキューコンロだと答えている。木炭から発せられる遠赤外線がとてつもなく暖かい。冷え切った指先がポカポカと温まる。サーモンナゲットやターキーをいただきながら、暮れ行く湖面を眺めながら、静かなひとときを過ごす。
夜、水際を眺めると、小魚とたくさんの小さなザリガニを発見した。空には雲がどんよりとかかっていて星空は見えない。向き抜ける湿度の高い風が肌寒くて、20時過ぎには、早々にテントに入って、シュラフに包まり、眠りについた。