休日 La Mauricie National Park kayak-camping 二日目

夜半から雨が降り始めた。テントの布地を叩く雨音が響く。何度か目が覚め、うつらうつらとしながらまた眠りについた。
7時を過ぎてようやく起きる。雨、降り続く。

湖面いっぱいに広がる数々の水紋。湿気が肌寒さを倍増させる。ポールに吊るしておいた食料品・調理器具を回収して朝ごはん。オートミールとパンと紅茶のシンプルなメニューだ。湖ではハシグロアビの親子がゆっくりと湖面を横切っていく。寒いことを除けば、雨に濡れてしっとりとした色合いになった紅葉の森もまた美しかった。

9時頃から雨脚が強くなって、タープの下でひたすら本を読んでいた。じっとしているのでダウンジャケットを着込んでいるのに寒い。雨、昼頃には無事上がってくれるかなーと考えながら時を過ごす。
11時を過ぎて雨脚が弱まったので、撤収作業を開始した。カヤックのコックピットには結構水が溜まっていた。一晩で随分と降ったものだ。
やがて雨が止んで、11:45にようやく出発。

まずはLac des Cinqの一番西側へと向かう。この西端には、Matawin Riverにつながる5.4kmのポーテージルートがある。この場所を訪れることはこれが最初で最後だろうなぁと感慨に浸りながらパドルを漕いだ。
西端から、時計回りに湖の岸際を漕いで行く。昨日対岸に見えた管理用の小屋の横を通り過ぎ(案の定誰もいなかった。煙突のついた綺麗な小屋です)、キャンプサイトNo.2を通り過ぎ(誰もいなかった)、進んで行く。湖の中央部にあるキャンプサイトNo.3を12:45に通り過ぎて、湖の東側を回り始める。こちらの東側は(全部ではないけれど)夏に訪れた場所だ。夏に来た時は何故か普段全く思い出さない安室奈美恵の曲が頭の中をヘヴィーローテーションしていたことを思い出した。変わらず美しい森が続く。

No.4のキャンプサイトを過ぎて(ここは前回来ていない)、さらに東側へと向かう。島の間を通り抜けるとこの湖の東側の最果ての湾に入る。アオサギが何かを狙っている。

細い水路を伝って隣の湖までカヤックで行けないかと考えていたのだけど、浅過ぎた。諦めて、最後に湾の南側を回って、湖の入口に戻ろうとそちらへと向かう。
と、その東の湾の一番南の湿原に、大きな塊があることに気がついた。距離約600m。13:25。岩だろうか、と思いながらズームカメラで覗くと…動いた!まさか!はやる気持ちを落ち着けて、じっくりと見る。間違いない、ムースだ!

パドルをあまり高く上げないように気をつけながら、静かに近づいていく。水中で水草を食んでいたムースは、距離300mぐらいで僕に気がついたのか、こちらをじっくりと眺め始める。

距離100mになると、ゆっくりと岸辺に向かって歩き始め、岸に上がってじっとこちらを見ている。ツノを見るに、まだ若い、おそらく2歳のオスのムースだった。最終的な距離は60mぐらい。やがて、ムースは再びゆっくりと歩き始め、森の中へと去っていった。

感動…ムースを見るのは先々週に続いて二回目だけど、夏の間ずっと見たくて森と湖をまわってきた。そして最後の最後、最奥の湖の最奥の場所の一つで、出会えたことに感謝。

さて、ムースに出会って大満足の中、湖の中央部にある入り口へと向かう。色鮮やかな紅葉の森がより一層鮮やかに見え始めた。嬉しかった。
14:05に上陸。誰にも会わなかった、紅葉を独占できた、ムースも見ることができた美しい湖。名残惜しいけど、Lac des Cinqとはここでさようなら。400mポーテージしてLac Dauphinaisに戻る。
14:35にLac Dauphinaisを出発。この先で初めて一隻のカヌーに出会う。あわよくば三日間誰にも出会わないだろうかと期待していたのだけど、残念ながらそうはならなかった。

湖面のカゲロウを眺めつつ、今宵のキャンプサイトLac DauphinaisのNo.2のサイトを目指して漕いで行く。

焚き火の香りがするなぁと思いながら進んでいくと、No.3のキャンプサイトにカヌーが3隻泊まっていて、奥にはテント、そして大きな焚き火の様子が見えた。(焚き火禁止のルールは守らないという)期待を裏切らない光景に苦笑する。
キャンプサイトNo.2には15:25に到着した。上陸地点は細かいシルトが堆積していて歩きづらい。このLac Dauphinaisのキャンプサイトは3箇所あるけど、この一点で、No.3、No.1の方がいいと思う。ここからの眺めは素晴らしいのだけど。

幸いこのサイトで今晩泊まるのは僕一人だけだった。タープ、テントを張って、折りたたみ椅子に座って一息つく。

サイトの周りにはたくさんのリスがいて、けたたましく鳴きながら辺りを駆け巡っていた。

ワインを飲みながらシンプルな晩御飯をいただく。ネイチャーストーブを組み立て、残っていた木炭に火をつけて、温まる。小さな贅沢。夜になっても雲は残っていて星空は眺められなかった。20時前に早々と就寝。