魚野川

泳いでいる自分を自分撮

昨夜寝たのは一時半過ぎだった。三時半に起きて、準備を整え、四時前に家を飛び出す。川に行きたかった。魚野川に行きたいと思った。昨年の中越地震の一週間前に行って以来。地震の後どうなっているのかを知りたかった。折りたたんだカヌーをバイクに無理やりくくりつけ、池袋まで行き、そこにバイクを停めて、電車に乗り、上野へ、そして、新潟県六日町駅を目指す。途中、利根川の流れが見えたが、なかなか素晴らしい流れ。スリル満点、今度挑戦してみよう。上越国境の山々には遅い残雪が残っている。
駅に着き、川まで歩く。大きな荷物を背負った僕に、地元のおばさんが話しかけてきてくれた。坂戸橋の少しだけ下流にもう一本橋が出来ていて、そちらに行く。ここなら駅からも全然遠くない。川原には、アルフェックのボイジャーの古い型(リンクしているものよりさらに古い)を持ったカップル一組。これから魚野川を下るらしい。男性の方が、写真を勉強しているらしく、何でも旅する人がテーマらしく、写真を撮らせてくれというので、喜んでというと、十数枚撮られた。こちらが組み立てている間に出発。遅れてこちらも出発。
風が気持ちいい。川の水温はやや低め。割と澄んだ流れの中を、カヌーが軽やかに流れていく。今日の天気はいい。最高気温はかなり高くなるらしい。カヌー日和。水面下に魚。白く泡立つ流れ。遠くに見える上越の山々。橋の上を歩く人々。浮かんだ雲。さえずる小鳥。飛び立つサギ。河岸の草むら。パドルの水しぶき。開放感。優越感。今日はとことんのんびり過ごそう。カヌーの上で手足を伸ばして寝る。のんびり進むのに、先行のカップルに追いつく。美しい風景だなと思った。
じりじりと日に焼ける。日焼け止めを塗り、帽子を被る。浅瀬を行くときの、川の上に浮いたあの爽快感。眼下には思った以上に早く流れる川底の石。こればっかりはカヌーに乗ってみないことにはわからない。
城巻橋の先は少しだけ水流が激しい。波打つ水面を行く爽快感。いいなぁ。やがて関越高速道路が交わり、その先に八海橋の瀬がある。水面下にいろいろ埋まっている難所。手前にカヌーを停めて偵察。夏草の匂い。紫色の小さな花。瀬を覗き込むと割と大きな鮎が瀬を踊っていた。ルートを確認し、挑戦。真っ白に泡立つ瀬では、首まで水を被り、一箇所やや強めに岩(コンクリート?)に当たる。カヌーは水浸し、水風呂になる。この時期だとファルトボートだったらポーテージしたほうが無難。でもそうした瀬を抜けたときの爽快感がまたいい。釣り人を横目に見ながら、下っていく。
暑いので、水中眼鏡をつけてカヌーから飛び込む。深みでは少し濁っていた。深く潜り、雑魚を探し、鮎を探す。流れは思っている以上に速くて、カヌーを置いて僕だけどんどん流されていくので、流れに逆らって泳ぎ、カヌーに合流。這い上がり、再び流されていく。雪国まいたけが見え、日差しはきつく、でも川を這って吹く風は涼しい。
中州地帯を越え、浦佐の瀬につく。二段ほどの落ち込み。水面下にはコンクリートの塊り。ファルトボートだったらポーテージが無難。インフレータブルカヌーだから気にせずにそのまま突入。激しい瀬の、あの、感覚よりも少しスローモーションな波の盛り上がり、舟の動きが好きだ。浦佐を越え、水無川のところでは、川ガキがたくさんいて、泳いでいた。橋の上からおじいさんが僕に手を振ってくれる。
その先で上陸し、泳いだ。もう少し下流か上流の方が良かったかも。やや濁っているところだったから。水中では、鮎のハミ跡は見られたが、鮎は見当たらない。もう少し瀬に行かないと。雑魚は結構いて、手掴みすべく、粘るがうまくいかず。敗北感。しばらく泳いだ。泳いでいるところを記録しておこうと、セルフタイマーで撮影。この苦労がわかる人は何人いるだろうか?
その後も流されていく。遠くに見える山の斜面が崩れているのは、中越地震の影響だろうか?川で遊ぶ子供たちは割とたくさんいる。うれしい光景だ。選挙前らしく、選挙カーが候補者の名前を連呼しながら、通り過ぎていく。魚野川も川幅が広くなり、大河となる。底が支える場所はなくなるが、多くなった水量が、時折大きな波となり、軽く水に浮かぶカヌーを大きく傾ける。体重を移動させて耐える。楽しいな。ゴールが近づくと、後はほとんど漕がずに流されていった。のんびりした時間だった。
宇賀地橋に着き、上陸。カヌーの10名以上の大きなパーティーがいて、片付けをしていた。ガスバナーでお湯を沸かし、カップラーメンを食べる。流れいくゆったりとした流れをぼんやり眺める。ここは、中越地震で天然ダムが出来て有名になった芋川の合流点のほんの少しだけ上流地点だ。橋の下には、延びた川原に座り、ゆったりと釣りをする老人一人。かなり絵になっていた。どこか切なくもあったかも。気がつけば、結構時間ぎりぎりになっていて、慌てて片付け、重い荷物を背負って北堀之内の駅まで歩く。
ローカル鉄道に乗り込んだが、疲れていたので、浦佐から新幹線に乗り換え東京を目指す。池袋でバイクにカヌーを積み、家まで走る。明日から仕事というのにこの疲労感は何だろう?でも、それは心地よい疲労感でもあった。