熊に遭遇

次のポイントを探していた。牛首谷から少しだけ上に林道を行った場所に小さな沢があり、そこに向かう。と、その沢に着き、ふと30〜40mほど先を見ると、なにやら黒い物が動いている。初めは黒くてでかい犬かと思った。誰だろう、こんなところに犬を放しているのは・・・・なんて考えていたのだけど、どうも様子が違う。よく見るとびっくり!熊だった。熊を見るのは初めて。以前、知床で熊に遭遇しかけたが、藪がすぐ横で激しく動いただけで、ヒグマの姿は見えなかった。実は僕は熊コンプレックスを持っていた。これだけ野外に出ていながら、熊を見たことがないということが悔しかった。他の野生動物は大抵見た。何度も見た。でも熊はなかった。
「へぇ、熊見たことないんだ」
そう言われると悔しかったのだ。
熊は僕にどうやら気がついていないようだった。デジカメを取り出し、とりあえず写真を撮る。動画でも撮る。ザックには熊スプレーが入っていた。過剰装備と見られる事もあったが、僕はいつも持っている。理由は、ディフェンスの為ではない。熊に遇った時に落ちついて観察できるようにと思って持っていた。その目的がついに果たされる日が来たのである。
熊スプレーを左手に、右手にカメラを持って熊に近づく。そんなに大きくはない。セントバーナードか、それより少し大きい程度。まだ若そうだ。草むらの中で餌を探している。
やがて20〜25mほど近づくと、流石に熊も気がついた。こちらを見てる。次の瞬間、こちらにとことこと向かってきた。
熊スプレーがあると言っても少しはドキドキしている。射程距離は6〜9m。不安がないわけではなかった。今持っているスプレーは、某環境アセスメント会社で品質保持期限が切れて練習用、とされていたのをこっそり借りているものだ。以前別のスプレーを持っていたが、友人に貸したらどこかにおいてきたらしい。もっとも、そちらは射程距離がわずか3mだから、今持っている方が良かったのかもしれない。
ビビリつつ、三歩下がったが、そこで留まって、安全装置を外す、来るなら来い、そう思った。熊はこちらに向かっていたが、5mほど来ると急に反転して逃げていった。やれやれ。
その場所の調査を諦め、さらに先に進む。が、いい場所がなかったので、バイクで林道を戻っていると、さっきの場所から100mほど離れた場所で、再びばったり熊に遇う。おそらく同一個体。5秒ほどして、逃げていった。
なんだかんだで時間が取られ、次の場所をサンプリングすると、いい時間になってしまった。林道を戻り、柳沢の方を見に行く。が、なかなかいい場所がなかった。途中、林道があって、いい場所もある。ただ、もう、少しずつ薄暗くなる。調査は諦め林道の先に行くと、さっきの熊のいた付近に来た。つながっていたらしい。
戻って、柳沢峠を越え、大菩薩で温泉に入り、スーパーで買い物をし、雁坂トンネルを越えて秩父へ。今日は宿舎に泊まることになっていなかったので、手前の、出会いの丘、という駐車場、展示施設のあるところの横の広場にテントを張って寝た。
なかなか面白い一日だった。疲れたけど。