夜明け前に

ノウサギ

鹿がテントの傍で鳴いていた。朝はあまり聴いたことのない、意識したことのない鳥のさえずり。ワサビ沢の砂防堰堤の上にはサルがいた。起きて出発の準備をする。ご飯はあたりめをひたすら齧った。
ワインディングロードを下り、川又の自炊宿舎に着く。荷物を下ろした。宿舎には同じ研究室の棚橋が来ていた。なんだ、それなら昨晩宿舎に泊まればよかった、そう思った。
まだ七時前だ。鍵を取りに三十キロ離れた秩父市の事務所に向かう。滝沢ダム建設の関係者の車と多くすれ違う。随分完成に近づいたダムだ。朝なのに、割と道は混んでいて、トラックの後を走っていて、前がよく見えてなかったのだが、突然、轢かれた動物の遺体が目の前に現れ、避け切れずそのまま上を走る。ムニュッとした感触がタイヤを通じて伝わる。かなりへこんだ。遺体の上を踏んで気持ち悪いではなく、遺体を損傷させたことが悲しかった。帰りに確認するとそれはノウサギだった。
事務所で手続きを済ませて、カインズホーム(ホームセンター)によって必要なものを買い、山奥に戻る。宿舎で朝ごはんを食べ、山に行く。とりあえず、川虫の摂食活動が、落葉リターのコンディショニングにどのような影響を与えるのか?という疑問に答えるための実験をやる。三時ぐらいに作業が済んだので、台風の時に流され、ゴミになっている様々な実験用品残骸を集めるために沢の下に降りていった。残っていただけでゴミ袋一杯分の量があった。釣り人さんごめんなさい。
明日の朝は早いことがわかっていたので早めに切り上げる。と言っても5時は過ぎていたけど。帰りにブナ林によった。最近川を見てばかりで森を見ていないと思っていたから。すると可愛いノウサギが出てきて、いい被写体になってくれた。
宿舎に戻り、適当にご飯を作って食べる。九時過ぎには眠りについた。