魚野川

出発地:坂戸橋

4:15に起きる。起きなければという気持ちが睡眠を妨げ、眠くてかったるいのに何度か目が覚めた夜だった。珍しく前夜に準備を済ませていたので、朝は割と落ちついて準備を整える。4:45に家を出た。カヌーが詰まったザックが重い。このカヌー用のザックは改良の余地がたくさんあると思う。ショルダーハーネスの位置はもう少し下でいい。重心がいまいちで、必要以上にザックが重く感じてしまう。まぁ、30kgほどのザックを背負えば、それなりに重いのは当たり前ではあるのだけど。
山手線に乗り、上野で乗り換え。5:13発の高崎行の電車に乗る。論文のコピーを持ってきたのだけど、眠くて全然頭に入っていかなかった。うとうとすること約二時間、高崎に着き、水上行の電車に乗り換える。この電車も眠かった。上越国境稜線が近づくにつれて車窓は楽しいものになる。谷川岳には先日の冠雪が残っていて、山の表情を豊かにしている。紅葉も進み始めて電車の中は谷川岳周辺に紅葉狩りに行く登山客で賑わっていた。
水上で長岡行きの電車に乗り換え。登山客の多くは土合駅で降りていった。閑散とした電車はトンネルを抜け、のどかな風景の中を横切っていく。越後湯沢で乗客が増える。外は寒い。これからカヌーをするというのに何でこんなに寒いんだ!そう思った。
9:17に六日町駅着。降りて、坂戸橋まで15分ほど歩く。天気は最高にいい。気温も暖かくなってきて、ザックを背負って歩いていると暑かった。坂戸橋の左岸に下りて、カヌーの組み立て。魚野川の水は澄んでいる。透明度も高い。よく行く那珂川の20倍はきれいだ。カヌ―に乗る前からわくわくした。今回持ってきたのはインフレータブルカヌー。空気を入れるだけで簡単に組み立てられるカヌーだ。直進性はあまりないが激流に強いモデル。流れのある川に適している。
10:30に出発。きらきらとした澄んだ流れをカヌーが軽やかに滑っていく。水温はそれなりに低くて、濡れると寒い。でも秋の高い空と澄んだ空気は美味しくて、頬が緩んだ。水はきれいだからひたすら嬉しい。川底が見え、目を凝らすとたまに泳いでいる魚も見える。時折魚が飛び跳ねた。一度は30㎝程の大きな魚も飛び跳ねた。そんな中を流れていく。
あまりにも嬉しくて、カヌーの上から友人に電話する。寝起きだった友人は何だか不機嫌そうだった。他にも電話。たっぷり自慢しておく。
魚野川は田園の中を流れる川だ。両岸には護岸が多くて、建物も見える。河畔林が多い那珂川などとはまた違った雰囲気。遠くには八海山をはじめとする越後の山々が見渡せた。釣り人はたまにいて、そうした部分ではできるだけ反対側の流れを下った。瀬が多くて、カヌーをこいでいて飽きることはない。
時々、底が少し浅めで注意しながら下っていく。関越道の橋を過ぎた先に八海橋という橋があり、そこの下は消波ブロックが敷きつめられている。中州の右を通り、八海橋の手前で中州に上がって偵察。流れはきつい。水量が多いのか、少ないのかはよくわからないが、今回の水量ではここの通過は難しそう。が、自分の無鉄砲さというか、冒険心というか、そういうものがくすぐられて、ここをポーテージ(カヌーを担いで歩いて運ぶこと)して通過するのは嫌だった。右岸から数えて3番目と4番目の橋脚の下が通れるのだけど、真っ直ぐ行くと消波ブロックにぶち当たりアウト。真っ白い水柱が迫力持って何本も立ち上がっている。その流れの中で、中央やや右より、または左端が通れそうだった。緊張したが、行ってみることにする。事前に決めたルートは中央やや右よりの1mに満たないほどのライン。ドキドキしながらカヌーに乗り込む。中州に生えた草を掴みながら寄っていく。が、近づくと持っていた草がちぎれて、仕方なく突っ込む。流れは速くて、中央やや右よりのルートは取れず、とっさに左端のルートに変更してそちらに向かって必死で一かき二かきする。消波ブロックぎりぎりのラインで通れたのだけど、頭から水を被り、カヌーのコックピットが水風呂になった。水抜き穴から水が抜ける頃には、その瀬も少し遠ざかり、緊張感からの解放と、少しばかりの達成感があった。でもファルトボートでなら豊水期以外ならポーテージするかな。ブロックに張り付けば、カヌーは壊れる可能性大の気がした。
時折遠くから釣人と、橋の上を歩く人に会釈しつつ流されていく。さっき濡れたので少々寒い。浦佐の瀬に近づく。瀬の直前までは静かな流れ、先が見えず、瀬の流れに乗ると一気に進んだ。消波ブロックが水中に見える。まず大丈夫だが、余程悪いコースを取ると底を擦ることもあるかもしれない。波を被りながらこいでいく。流れは真っ直ぐで、難しいわけではない。無事越えて、再び流されていく。多聞橋のところには一隻のファルトボート(折りたたみカヌー)が停まっていた。ここはトイレもあるという話だから休憩しているのだろう。川の上から持ち主を探したが見つからず。諦めて先に進む。川岸では何組かバーベキューを楽しんでいた。川の横の線路をJR上越線の電車が走っていく。
右岸から水無川が合流するところでカヌーを停め、上陸して休憩。水際では稚魚が群れていた。クリームパンを齧る。今回時間配分がわからず、あまり休憩せずに先に進むことにした。北堀之内駅が最寄り駅となる宇賀地橋まで行こうと思っているのだけど、各駅停車で帰れるリミットは北堀之内駅に17:00だ。もちろんその手前にも駅はいくつもあって、コースを縮めることはできるのだけど、折角だから全部行きたかった。のんびりしたい気持ちもあったが、今回は少しお預け。透明度も高いから潜りたかったが、それには少々水温が低過ぎた。13:00に再出発。
魚野川は瀬が続く。あまり淵という淵はない。あっても流れがある感じ。のんびりした淵もいいけど、僕は流れのある方が好きだな。あちこちに危険でなく程よい瀬がたくさんあって面白い。が、八色橋の下は、消波ブロックが水面下に隠れていて(特に右岸側)、水量次第では少しだけ気をつける必要があるだろう。福山橋を過ぎた所で、川幅一杯に遡上してきた鮭を捕獲するためのやなが仕掛けられていた。魚が集められる先の檻には鮭が集まり、それを漁師さんが一匹一匹掬い上げていた。父親に連れられてきた子供が興味深そうに鮭を見ている。どう進めばいいのかわからずにいると、漁師さんが気がつき、身振り手振りで、やなの上に乗ってもいいというので、左岸側の木でできた梁の上に乗ってカヌーを引っ張り上げ、下流に下ろして、先に進む。振り返ると出発してすぐは間近に見られた山々が少し遠くに遠ざかる。遡上してくる鮭を探しながら下ったが、見つけることはできなかった。
青島大橋を過ぎて、魚野川はようやく大河の様相を示してきた。瀬の中にようやくあまり流れのない淵が続く。川から眺める町並みは生活感が漂う。布団を干しているおばさん、町を歩く中学生、橋を渡るおじさん、土手を散歩するおじさん、川べりで川を眺めるおばさん、あれこれと悩み事を話してそうな二人組の女の子・・・・水鳥はたくさんいて、川を下りながらカモやサギが群れをなして逃げていく。透明度は流石に少し落ちてきたが、それでも関東付近の川よりかはよっぽど澄んでいた。
いくつかの大きく波立つ水量豊かな瀬を下り、水を被っていると、宇賀地橋に到着。14:45。余裕たっぷりの時間だ。今度、日帰りでこの川に来るなら、途中をもう少しのんびりできるタイムマネージメントができるだろう。カヌーを引き上げ、乾かす。橋の上から中学生と思しい少年たちがこちらを見ていた。ガスバーナーで火をたきお湯を沸かし、カップラーメンを食べてのんびりとする。流れ行く川を眺めるのは好きだな。16時前になりカヌーを畳んでザックに積め、駅を目指して田んぼの中の道を歩く。重い荷物を背負い、ゆっくりとした足取りで歩いていくと、20分ほどして駅に着いた。北堀之内駅無人の小さな駅だ。荷物を置き、来る道沿いにあったたこ焼きの店に行き、たこ焼きを買い、食べつつ電車を待つ。
夕暮れが早くなった。季節の移り変わりを一段と感じる。電車に乗ってその後はひたすら揺られる。うつろうつろしつつ、電車を乗り継いで東京に帰った。
のんびりと美味しい空気を吸い、清冽な流れと戯れた素適な一日だった。