高速道路でバイクのエンジン停止

峠を越え、長い坂を下り、八王子ICの先の料金所へ。ここまでは快適そのものだった。料金を1600円払い、再び走り出す。この様子だと、大学に七時過ぎには着けるだろう、そう考えていた。セローと違い、120㎞/hのスピードなんて余裕なので、追い越し車線を走っていた。交通量は多くて、どちらの車線にもたくさんの車がいた。
それは、夜が明けてきた東京の空の下のことだった。
走っていて、バイクのエンジン回転数が、先ほどよりも少し低いことに気がついた。先ほどは100〜120km/hで走っているときは、6000回転よりは上に来ていた。なのに、4000回転ほど。先ほどはもしかしてギアを六速まで上げていなかったのだろうか??そんなことをチラッと考えてみたりする。
突然、回転数が3000回転にまで落ちる。おかしい、そう思い、減速チェンジをしながら、車線を走行車線に移す。三速まで下げると急にエンジンは元気を取り戻して、6000回転まで戻った。何だったのだろう、そう考えながら、ギアを上げ、追い越し車線に戻った。そして、国立・府中ICまで2kmの道路標識を過ぎた先のことだった。
ウィィィィンッヴィィィィィィン・・・・エンジン出力が急に低下し始めた。アクセルを噴かすのだけど、全然効果がない。タコメーターの針がどんどん低下し、それを追ってスピードメーターの針も低下していく。出力低下・・・頭の中に戦闘機ものの映画の迎撃シーンやら、昔見たVガンダムの最終話の1シーンやら、スペースシャトルの訓練シーンやら、アポロ13の酸素ボンベ爆発シーンやら、そうしたものが浮かびあがり、あるはずのない非常事態のアラーム音が、頭の中に響く。120㎞/hから瞬く間に60km/hに落ちた。強いエンジンブレーキクラッチを切った。ウィンカーもうまく点灯していない。切れているロービームの代わりに点けていたハイビームの点灯確認ランプは不規則に、だんだん消えていくかのように点滅していた。たくさんの車が走る中、何とか左車線に移り、そのまま路肩へ。路肩に入って50mも行かないうちに、エンジンは最後のわずかなニュートラルランプ点滅と共に完全に停止。バイクの惰力も落ちて路肩に停まった。とりあえず、事故を起こさなかったことに安堵した。
キーをひねるも、ニュートラルランプすら点灯しなかった。電装系が全部ダメなようだった。何だろう、ヒューズが切れたのか?そんなことを考える。
幸い、国立・府中ICまで1kmもないところにいたので、バイクを押しながら高速道路の路肩を歩き、何とか高速道路の外に運び出す。路肩があるとはいえ、高速で走る車のそばを歩くのは気持ちのいいものではなかった。出口付近の駐車場にバイクを停めると、助かった、そんな気持ちが溢れてきた。
とりあえず、バイク乗りで実家がこの辺のイトーに電話。まだ朝の六時半。しかも非通知になっていたらしい。こちらに帰ってきていることを祈ったが、どうやらいないよう。残念。続いて、バイクの持ち主である研究室の後輩に電話。この後二時間ほど頻繁にこの二人とやり取りする。イトーはライダー仲間にいろいろ訊いてくれていた。Thanks.
車載工具を取り出してきて、カヴァーを外す。バッテリーの+の端子のネジが外れかけていたけど、これはつないでもダメだった。ヒューズを探して、計5個ついていたヒューズをみなチェックしたけど、切れている様子はない。バッテリーの表面は、初めは熱くてとても触れない。冷えかけてから触ると、バッテリーが凸凹と波打っている。電装系がイカレているし、バッテリーが何かおかしいのかも・・・そんなことを考えたりする。
この辺の土地カンがあるイトーにバイクのパーツショップの位置などを聞く。結構近いところにあるとのこと。バイクを置いて、見に行った。国道20号に交わると、その少し先に2りんかんというバイクパーツショップのチェーン店があった。距離は1km強、といったところか。これなら運べる、と、バイクを運ぶ。停めてあった駐車場では、掃除のおばさんに話し掛けられた。
2りんかんは朝の10:30に開店だった。まだ九時前。2りんかんに行く途中に個人経営のバイク&パーツショップ「TAKI」があった。一度は通り過ぎたが戻り、症状を相談する。ヒューズは飛んでいないし、バッテリーかも、と言うと、じゃあ試してみてください、と他のバッテリーを持ってきてくれた。ケーブルでつないでキーを回すと、電装系が復活した。やった!でもエンジンは始動しない。
見せてください、そう店員さんは言って、バッテリーを一目見て、バッテリーの表面を触った。そしてため息混じりにこう言った。
「(バッテリーのパッケージは)古いし、波打っているし、天寿を全うしたねぇ」
店員さんの説明によると、古い劣化したバッテリーを使っているときに、バッテリーが突然死することがあるらしい。高速道路でバッテリーの突然死。恐ろしい。
もう少し強力なバッテリーに繋ぎ直すとエンジンは無事掛かった。原因はバッテリーだったことを確信。うちには今在庫がないから、急いでいるならすぐ先の2りんかんでバッテリー買うといいよ、そう店員さんは話していた。いい人だなぁ、そう思った。見てくれて、本当にありがとうございました。
2りんかんまでバイクを運び、一時間弱時間を適当にその辺を歩いて潰す。開店するとバッテリーを外して持っていって同じ種類を選び、バッテリーを買って、バッテリー液を注入し、バイクに組み込んだ。バッテリーをつける作業がネジがうまく通らず少し苦労した。そしていよいよ始動。一秒もセルモータを回さないうちにエンジン始動。完璧だ。
十一時半を過ぎて、そこから大学に向かって走り出す。東八道路を走り、甲州街道に戻り、大学に一時過ぎ帰ってきた。予定より6時間遅れ。疲れた・・・・
統計ゼミの前に家に帰り、シャワーを浴びる。その時にセローに乗っていったのだけど、加速感の違いにびっくり。こんなにもセローって遅かったんだ、そう思った。なんだかそれも少し悲しかった。