秩父二日目

矢竹沢

夢を見ていてた。たくさんのシーンがあった。大きな熊に遇う場面もあった。何年かぶりに夢に出てきた人もいた。久しぶりにまともに会話をする。何だか不思議な気分。その背景に、頂に雪をたたえた大きな山々があった。そういやここにかつて登ったなぁ、そんなことを考えていた。その場所は現実にあるわけではない。かつて長々と見た夢の中で登ったことのある山。雪もたっぷり積もっていたし、距離もあるし、あれは大変だった。そんなことを思い出す。夢から覚めて、昔、あの山に登った夢を見たことがあったなぁ、そんなことを考える。夢の中の記憶。覚醒しているときではなかなかアクセスできない記憶領域。いろいろな夢を見るけど、夢の中でかつて訪れた場所に再び、というのもたまにあって面白い。面白いことばかりではないこともある。ホラー映画(特にゾンビ系)は本当に怖くてダメなんだけど、一人真っ暗な山にいたりするのは案外平気だ。もちろん、何か気配を感じるときはそれなりに怖い。でもその時は小学校三年生の時にバードウォッチングの合宿で知り合ったどこかの寺の坊主に教えてもらった幽霊撃退呪文を唱えて、まあ何とか気持ちを落ち着かせる。が、夢で見た何か得体の知れないシーンとダブる風景にあってしまった時は、恐怖そのもの。背筋がゾクゾクする。あんまり呪文が利く気もしない(注:僕は無宗教です)。あれは本当に怖い。何か潜在的な何かがあるのだろうか??
秩父二日目。
味噌汁とお茶を飲んでから山へ。片付かない荷物を何とかまとめる。とりあえず2往復してごみ以外のものを運んだ。結構いろいろな人に会う。釣り場のおばさんに挨拶。技官さん×2、大村さん(技官の人だけど)、津田さん+大澤君。
その後、川の中に散らかったごみの片付けに、矢竹沢を下った。台風の増水で流されたサンプルを入れていたメッシュの網。あちこちに落ちていた。歩きながら、あの淵で虫を集めたなぁ、あの細流でカワネズミを見たなぁ、あの岩の下でイワナを釣り上げたなぁ、あの木の上にでっかいタカ(クマタカ?)がいたなぁ、そんなことを考えていた。
結構下ると、沢の両側が、ここ一年の間に皆伐されたところにたどり着く。一部区間だけど、沢の荒れ様はひどいもんだ。演習林の沢ですらこんな惨状だ。スギの葉がたくさん水に浸かっているのだけど、ここにたくさん引っかかっていた。足元の深みにはイワナが一匹。もうしばらく降りてから引き返し、ごみを回収しながら遡っていった。戻ってくるとゴミ袋一杯のごみ。これだけのサンプルが流され作業が水の泡と消えたのだな、と思うと、無駄なことをたくさんしてきたと思う気持ちと、めげずによくやったじゃないか、そんな気持ちが交錯する。ごみをまとめて、バイクへ戻る。コンクリートブロックは25個あったのだけど、また使う可能性が無きにしも非ずなので積み上げ、その場に残してきた。宿舎に戻り、残りの片づけを行う。以外に時間がかかる。
そして、東京へ。
学校では、来年三月の生態学会の参加申し込みをどうするか、という話。今回はパスという話になった。
家に帰ってくると、疲れ切っていたのだけど、銀行のキャッシュカードが届いています、というはがきが来ていたので、深夜王子郵便局に取りに行った。
風が強い。少し生暖かい夜の空気。
再び家に帰ってくるとすぐに熟睡した。