別寒辺牛川現地調査

朝6時に起きて、カヌーを車に積んでから六時半前に家を出る。職場までの道で、2回ほどエンジンが停止して焦った。いよいよいよいよ調子が悪いみたい。祈る気持ちで運転する。無事職場に着いたときはホッとした。
駐車場でカヌーの組み立て。今日は別寒辺牛川の現地調査なのだけど、当河川は日本で最も人工物の少ない川。人工護岸もまったくと言っていいほどない。その関係で、ここを見るにはどうしてもカヌーで下る必要があった。そんな美味しい現地調査(見学)の準備が、ここ釧路に来て最初に所長から特命で言われた仕事だった。あの時は思わず顔がほころんだよな。
厚岸水鳥観察館に2隻のカヌーがあるのだが、人数の関係で僕の持っているカヌーも使用することになった。それで朝早く来て組み立てた。警備員さんが何人かやってきて、これはボートか、何、カヌー?カヌーとボートはどこが違う?、どこに行く、といろいろ話をする。組み上げたカヌーを車に載せた後、所長もやってきて、いよいよ出発。外は霧雨が降り、少々気が重たい。
水鳥観察館に九時前に行き、挨拶の後、もう一隻のカヌーを載せる。空はどんよりしているが雨は止んでいたのは幸い。今日は晴れで降水確率20%の予報だったのにな。
別寒辺牛川橋の出発地点に行く。この川は湿原・タンチョウの保護のためカヌーの総量規制をしていて、出発地点も決められているのが特徴。カヌーを下ろし、出発の準備をしていると、捨て猫だろうか、一匹擦り寄ってきて、離れない。ダニに顔をやられていて可哀想。餌をねだっていたが、あげることはしなかった。
さて、カナディアンカヌー2隻、フォールディングカヤック一隻に、それぞれ二人ずつ乗り込んで計6名で出発。川幅は10〜20mほど。流れは時速2〜4kmぐらいか。水量は普通。ゆったりとした速さで流れていく。と、出発してすぐに、話をしていたら前の木に気づかず引っかかり、戻って何とか抜けたが、前に乗っていた方は素人だから推進力の点でまったく役に立たず、ちょっと苦労した。ひっくり返らなくてよかった。川の水は茶色に着色していて、所謂フルボ酸、フミン酸の着色だと、澁谷さんの説明を聞く。川底にカワシンジュガイがたくさんいる区間があった。川底をびっしりと埋めるドブ貝のような貝。多い時は月2回は下る、という澁谷さんは、視界に入る鳥、河岸の植物も全部解説してくれた。6月の終わりから7月の初めぐらいがこの川が最も美しいらしい。
護岸のない美しい川を噛み締めながらゆったりと流れていく。ゴミも少々あったが、他の川に比べれば1/100程度。ただ、一箇所河岸の枝に空き缶が刺してあって、こういうことをしたり、ゴミを残していくのは確実に釣り人なのだけど、そういうものを見ると本当に悲しくなる。釣り人のマナーの悪さ。自分も釣りが好きなだけに、ますます悲しいな。釣り人のマナーの悪さは全国共通。それはゴミに限らず。釣りは楽しい。そして釣れる場所を追い求めたい気持ちはわかるが、時には節度が必要なこともある。自戒も含めて。
川に張り出した木の枝で樹皮が剥がされているものがあって、冬季は川が凍るため、その間に鹿に食べられた木だという説明を受ける。なるほど。
途中、一箇所上陸した。一段上がると、ミズバショウの花が咲いていた。エゾエンゴサク、エゾネコノメソウも花を咲かせている。写真を撮っているとエゾアカガエルが跳ねて、捕まえ、これも写真に収める。踏み跡はあったが、人があまり入らないところであるので、群生している行者ニンニクも結構いいものだった。間引きと言いながら、自然の恵みを少し頂く。
その後ものんびり下る。パドリングをほとんどしないと周りの音がよく聞こえる。キツツキ、シジュウカラ、ヒガラ、ゴジュウカラ等のカラ類、オオジシギ、他、いろいろな声が響く。いたずらでバードコールを鳴らしてみたら、「誰かバードコールを鳴らしていない?」との澁谷さんからのコメント。流石だ。
カワセミがカヌーに追いかけられる形で先導し続け、ウミネコが川までやってきてニャーと鳴いていた。途中に北大の学生がセットしてあるイトウ調査の目印ブイがあった。カウンターが設置してあり、発信機を背負わせたイトウをカウントして、移動を見ているらしい。
左岸で釣り人を見かけた後、国道44号と交わる別寒辺牛橋に到着し、そこで昼ごはんを食べた。ガスバーナーを持っていったのでお湯を沸かし、味噌汁を作った。寒かったのでポカポカと温まった味噌汁は美味しかった。
再出発。橋をくぐる。この辺りになると流れがほとんどないので、漕ぐ。水面は静かで晴れていれば鏡のようになり、非常に美しいところ、と説明を受ける。下るにつれて、ライズが多くなる。それを見るたび、ナカヤマさんと顔を見合わせ、釣りをしたいなと言った。今キュウリウオが産卵のため群れを成して遡上しているところがある、と聞いていたのだけど、結局よくわからなかった。鉄橋をくぐり、もう一本の大きな支流と合流。広くなった川を行く。広がる湿地。水生植物はまだ芽が出ていなかった。山の斜面にはオジロワシがいて、あいつは若くて、まだ相手を見つけていないのですよ、と澁谷さんから説明を聞く。
大きなゴムボートに乗った釣り人三人が全然釣れない、と言いながら釣りを楽しんでいた。
右岸には、根室本線の一両編成の列車が走る。そしてその横の国道では、車が一台スピード違反で捕まっていた。後で聞いたが、新聞記者の方だったらしい。取材の帰りか、可哀想に。
終点、厚岸水鳥観察館横の大別橋に着き、カヌーを引き上げ、無事終了。ナカヤマさん、オーキさんが車を取りに行っている間にカヌーを分解、片付ける。野犬が一匹出没していて、すらりとしていて見た目きれいなのだけど、それなりに大きく(中型犬と大型犬の間ぐらい)、そしてちょっと動作が不審なので、犬好きな自分だが、吼えながら(同時に尻尾も振っていた??)警戒した目つきで近寄ってくると、ちょっと体が強張った。唸り声も上げながら3mまで近寄ってきたので、こちらも唸りながら睨んでいたら、足を止める。コラ!と怒鳴りつけた後、パドルを振りかざして突然猛ダッシュで追いかけると尻尾を巻いて逃げていった。近くには捕獲檻が設置してあった。
そして準備を整え、帰路につく。雨が本格的に降ってきたので、カヌーをしている最中に雨が降らなくてよかった。職場に戻ると、澁谷さんから今日確認した鳥類リストが届く。こんなにたくさんの種類がいたの?流石。その後はしばらく仕事をしてから帰った。なかなか楽しい一日だった。