巡視(石塚山・太忠岳)

石塚山からピナクルを見下ろす

朝七時半に集合で、事務所員三人で巡視に出かける。今日のメインターゲットは石塚山、そして太忠岳。石塚山には登山道がないのだけど、実際はしっかりとした踏み跡がついている。屋久島の古老が「屋久島で天孫降臨の地があるとすればそれは石塚山だろう」というぐらい雰囲気のあるところで、僕は5月に一度行っているのだが、他の二人は初めてということで、案内役となる。
ヤクスギランドに車を停め、八時過ぎに登り始める。駐車場から見上げると天柱石が聳えている。寒くなった。ひんやりとした空気が漂う。白い花びらが地面の所々に落ちていて見上げるとサザンカが可憐な花を咲かせている。時々見つける赤く染まった実はナナカマドだ。150分コースを辿り、蛇紋杉のところから太忠岳に向かうルートに入る。ここから途中天文の森を通り太忠岳に至る登山道はかなりのお気に入り。森が美しい。天文の森は江戸時代の天文年間に伐採された森なのだけど、朽ちていく根株が苔むし、まだ大きな屋久杉も残り、他にも真っ直ぐと伸びる木々、ツガの大木、ちょろりと流れる川の音、差し込む陽光、それらが醸し出す森の雰囲気がなかなか素晴らしい。
世界遺産地域の先は長い登り。のんびり歩いて出発してから二時間ほどで太忠岳との分岐点にたどり着く。そこから石塚山に向かう。ピンクテープが随所についているので、しっかり辿っていけばまず迷うことはない。森の中を歩く素敵なところだ。何箇所か岩屋があり岳参りの雰囲気を醸し出す。石塚山に近づき、尾根筋の上を歩くところは明るく気持ちがいい。
小一時間歩いて石塚山の下にある鳥居にたどり着く。大きな岩が重なり、その隙間に石碑がある。振り返れば鏡岩が高く聳えている。鳥居に付いたしめ縄が新しく、最近岳参りの方が来たことがわかった。そう言えば足跡もあったな。道の途中の苔むした岩のコケが少し剥がれていた。人が通ると真っ先にその影響が見えるところだ。お参りしてから少し戻る。木の根の下をくぐり抜ける手前のところから上に続く踏み跡・ピンクテープがあり、それを辿って石塚山の山頂を目指す。途中のピナクル状の秀岩である鏡岩の近くには、祠もある。
山頂は素晴らしい眺め。淀川登山口から宮之浦岳縄文杉、荒川登山口と縦走する屋久島山岳部のメインルートは、この石塚山を中心としてぐるっと弧を描くようにコースがのびている。秋晴れの今日は、高盤岳、黒味岳、投石岳、安房岳、翁岳、宮之浦岳、永田岳、ネマチ、太吉ヶ峰、平石、第二展望台、小高塚山(新高塚小屋の近く)、高塚山(縄文杉の近く)、太鼓岩と全て見渡すことが出来た。眼下に広がる屋久島の森。南沢が見えているのだけど、それは伐採を進めた屋久島の現実を見ることになる。本当、どこを伐ってしまってどこを伐っていないかは一目瞭然だった。
山頂で昼御飯。おにぎりを頬張り、味噌汁を飲み、みかんを食べた。小一時間ほど山頂にいて、存分に眺めを楽しんだ。そして、引き返す。帰りに木に登っているヘビを見た。珍しいかも。石塚山の踏み跡は、普通のゴミはないのだけどピンクテープの切れたものがそこそこ落ちていて、全部拾っていく。
戻ってきて太忠岳との分岐点の5m横にある岩の上に登ると花折岳が迫力を持ってよく見えた。こんな隠れスポットがあるとは知らなかった。
太忠岳に向かう。僕が太忠岳に来るのは三回目。相変わらずの素晴らしい展望。そして聳え立つ天柱石。台風4号で崩落した道路の位置を山頂から確認することが出来た。でも2.2km標高差で700m離れているだけあって全然目立つものではなかった。
太忠岳の祠の左側の隙間に、剣が置かれている。真偽の程は定かではないが、中国の方(だったはず)がこれはヤマトタケルノミコトの剣で、太忠岳に納めるようにとのお告げを受けたとのことで、知っているガイドの方が受け取ってここに持ってきて納めてたものだ。鞘が壊れていたけど、雰囲気はある剣。流石に手に取ることはしなかったけど、興味深いから見る価値はある。
太忠岳からの帰りは、ゴミを拾いながら、標識を確認しながら歩いていった。ヤクスギランドに戻ってくると太忠岳にはガスが掛かり、天柱石はもうまったく見えなかった。石塚山も太忠岳も展望があってラッキーだったなと思った。
事務所に戻ってきてからは、デスクワーク。この一週間、プライベート含め4日間山に行き、一日は海岸にゴミ拾いに行き、一日は家で寝ていて、一日はデスクワークをしたが二日酔いであまり頭が働いていなかったので、久々のデスクワークの気分だった。
家に帰り、野菜炒めを食べてから寝た。