あわや谷に転落?大スリップ!

それは、泉水谷林道に入って、3kmの地点を越えたところだった。
それは、雪がひっそりと積もる谷の、午後の少し緩んだ空気の中だった。
氷が厚く張り付いて、ツルツル滑る場所を何ヶ所か越え、慎重に行く。右にカーヴする急な上り坂で、一応ガードワイヤーが付いていた。見た目からしてやばそうな上り。これはある程度勢いもないと、と考えていた。
そこには、ちょっとした過信があったのかもしれない。
ツルツルとスリップしつつも、Jimnyは上っていく。が、上りの最後の部分、一番急になる場所でスリップ。そこは透明感のある氷が厚く張っていて、午後の緩んだ空気で表面が融けていた。
無理だ、そう思って、ブレーキを踏み込もうか、そう考えた瞬間、車が後退し始める。やばい!瞬時に起こりつつあるであろう事態を理解する。ブレーキをかけたが、止まらず、車は後方へ加速し始める。ツルツルの氷だから、勢いのついた車が止まるはずがない。後ろを振り返ると、谷!車は順調に(?)加速する。
気分はスピルバーグ映画の主人公。ただ一点違うのは、映画では危機一髪で難を逃れるが、現実世界ではどうなるのかわからないということだ。意を決してブレーキを止め、ハンドルを切る。が、滑ってハンドルは効かない。車+ガソリン+僕+荷物の1㌧強の重量物が持つエネルギーが頭の中を過ぎる。一瞬なのにいろんなことが過ぎった。車が大きく傷つくのは仕方がないとして、ガードワイヤー、ちゃんと車を止めてくれるかな・・・・・・
と、そのとき谷側の道路横の雪にタイヤの一部が入った。とっさにハンドルを切ると、真っ直ぐ落ちていっていた車は左に曲がり、そのまま道路側の雪に突っ込む。直前に幾分ブレーキが効いたらしい。摩擦の感触と、スリップの感触と、柔らかい雪にはまる感覚が伝わってきた。
車を降りて様子を見る。ツルツルで、歩くのは恐怖だった。なんと幸い!車は無傷!どこもへこんだり傷ついたりしていない。ホッとした。後ろ向きにスリップした距離は6〜7mほど。長く感じたのだけど、せいぜいそんなものだ。まだ坂の途中で、下までは距離がある。ツルツルの道をピッケルで削って滑りにくくする。何分ぐらいやっていたのだろう?20mほどステップを刻んで、ゆっくりと車を移動。切り返して、もう一度一息ついた。
スタッドレスタイヤの上からさらにチェーンを巻けば、さっきの場所は何とかなるだろう。多分。でも、その先ももうちょっと道の悪いところが何ヶ所かある。泉水谷沿いの四ヶ所に対して、そこまで体を張る必要があるのかと考える。何より先ほどの後ろ向きに滑った時の恐怖感がまだ残っていた。ここは諦め!そう叫んで、泉水谷林道を戻る。戻る途中でもスリップするところがあって、ちょっと怖かった。