奥駈四日目

雪降る中、弥山の急登を行く

起きてスパゲティーを食べる。今日は場所によっては夕方雨が降るらしい。遠くに見える今日の目的地、弥山は雲がかかり、雪が降っているよう。空はどんよりとしていた。6時を過ぎて、出発。スキーを履いていく。わりとなだらかな尾根をずっと歩いていく。雪の量は結構多くて、スキーがなかったら無茶苦茶時間がかかるのではないかと思う。もしスキーを壊してしまったら、それは大変なことになるので、慎重に歩いていった。尾根筋からは、どんよりとした空の下ながら、これまで歩いてきた稜線がよく見えた。ペースはなかなか快調で、いいスピードで進むことが出来た。動物の足跡は結構たくさんついていて、鹿もたくさんあったし、ウサギと、それを追いかけているような狐の足跡もあった。時々、岩が出ているところは、スキーを脱ぎ、またすぐに履いて、進んでいく。行者還トンネルの上を過ぎ、1450mの尾根筋には、行者還トンネルの西口に下りていく道があるらしく、テープがたくさん張られていた。荒廃した雪に埋もれた非難小屋のある一ノ峠を過ぎ、その先で、国道169号線から上がってきたと思われる人のトレースがあった。久々に見た人の痕跡。この人は弥山まで行ったのだろうかと考えたが、50mも行かないうちに引き返していっていた。膝ほどのラッセルで、とてもツボ足(ワカンやスキーを履かないこと)では進めないということか。またトレースのまったくない雪面を一人、進んでいく。
その先、尾根が西に曲がるところで、たまに見つかる目印テープが尾根筋ではなく、斜面をトラバースしていたので、それについていったが、しかし、次第に急になり、スキーで歩くのが怖くなり、アイゼンに履き替え、何とか進んだ。一上りすると、行者還トンネル西口に通じる分岐点に出た。これはおそらく安全な道。この先進んで、何かあればここまで引き返すことになる。
その先は、急に雪深くなってきた。スキーをもし壊してしまったら、腰上のラッセルになりまったく進めないのだろうなと思う。本当、さっきまでとは雪の量がまったく違うのだ。スキーを履いていても膝下まで埋まったりする。森は美しい。ひっそりとした森に、僕の息遣いだけが響く。やがて粉雪が舞い始めた。聖宝ノ宿跡から先は、弥山まで300mほど急登になる。地図では1650mから尾根筋の右側にトラバースし、1750mでまた尾根筋に戻ってくるような登山道がついているのだけど、雪に埋もれて何もわからないので、コンパスを切って、地図と高度計を頼りに、その急斜面をジグザグと登っていく。山腹途中からガスに包まれ、雪も降り、周りが何も見えなくなった。途中、かなり急になり始め、スキーを脱ぎ、アイゼンに切り替えた。しばらく行くと少し緩くなり、そうすると膝上のラッセルとなり、とても動けず、スキーに履き替える。が、少し行くと今度はまた急になり、仕方なくアイゼンに履き替え進んでいく。途中、一本の木で出来た不思議なアーチがあった。どちらが根なのかわからないが、不思議、Uを反対にしたような生きている木がそこにはあった。膝ぐらいまで埋まりながら、ゆっくりとその斜面を登っていく。思っている以上に時間がかかる。やがて、上りきって傾斜も緩くなり、スキーに履き替え。膝まで埋まりながらさまようと、弥山小屋を見つけることが出来た。入り口のドアは半分ほど埋まっていたが、掘り起こして、中に入る。泊まる人は3000円と書いてあった。雪も降っているし、小屋に泊まることにする。誰もいない茣蓙が敷いてある暗い小屋の中にテントを張り天気図を取った。明日は高気圧が来て暖かいようだ。
この先は、ずっと尾根筋を行くが、その先に釈迦ヶ岳という難関がある。夏はなんでもないのだけど、冬はそれなりに大変そうだ。しかし、釈迦ヶ岳まで行って、もし越えられないとなるとここに戻ってきて、さらに行者還トンネル西口に向かう必要がある。今の時期は道路が閉鎖されているからトンネル西口からも集落までは相当な距離があるし。戻るなら、今のうちだぞ。そのフレーズが幾度となく頭の中を渦巻いていた。大丈夫、何とかなるか、という気持ちと、大丈夫か、本当か?そのフレーズが交錯する。この不安感、好きではないが、嫌いでもない。
明日はどのぐらい進めるだろうか、そんなことを考えながら寝た。

タイム
6:03@行者還小屋 〜7:43@1410m(行者還トンネル上) 7:53〜8:35@分岐 9:50@行者還トンネル西口分岐 10:05〜10:45@1600.1m 〜11:25@1532m 11:35〜14:55@弥山小屋

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