奥駈八日目

深仙より釈迦ヶ岳を望む

起きると、風は強いがいい天気だった。今日は高気圧が張り出して暖かいらしい。準備を整え、ザックに詰める。小屋の中なのに雪が積もったせいでテントやらなんやらみな凍りつき嵩張り、ザックに詰めるのに苦労した。靴紐は左足小指と両方の踵に負担がかからないように締め方を変えた。これからは靴擦れとの戦いになる予感。道を歩き続ける奥駈の第三ステージが始まった。
小屋を出発する。なかなか素晴らしい景色だ。歩き始めてすぐに、凍った斜面のトラバースにアイゼンを付ける。大日岳はまたいつか登ろう。今回はパスした。太古の辻の手前にも凍った場所のトラバースがあって、アイゼンはあったほうがよさそう。太古の辻に着き、アイゼンを外す。美しい森だ。ここから奥駈道は南奥駈道となる。奥駈はこの太古の辻から下ったところにある前鬼でゴールとする人も多い。でも僕は本宮を目指したいんだ。看板がかかっていて、平治ノ宿まで9.7km、玉置山まで29km、本宮備崎まで45kmと書いてある。まだまだたっぷりあるようだ。
この先は雪は積もっていたが、道がはっきりとわかり、快適だった。道が地図を見なくても大体わかるっていうのは、こんなにも楽なことなんだなと改めて思った。雪はまだあるので、時々急な部分はキックステップを入れるが、左足をこれ以上痛めないように極力気を使った。石楠花岳を越え、天狗岳を越え、地蔵岳を越え、歩いていく。日差しがきつく、日焼け止めがないのでどうしようかと思っていたが、テーピングを顔に張ることで解決した。振り返ると釈迦ヶ岳、そして孔雀岳。孔雀岳の南斜面の石柱群が美しい。歩いていて暑くなり始め、バテ気味になる。しかし、この辺りの森の美しいこと。紀州の山奥にもまだまだこのような場所があることを嬉しく思った。般若岳を下り、剣光門、笹ノ宿跡に着く。ここから涅槃岳までは一登りある。休憩、とザックを下ろして、ふと足元を見ると銭が一銭。拾ってみると寛永通寳だった。ここの宿に泊まった旅人が落としたものであろうか?歴史ロマンを感じた。
涅槃岳を過ぎ、証誠無漏岳と阿須迦利岳の間には、鎖場が二ヶ所ほどあった。暑くて荷物も重くてバテ気味。靴ズレも痛かった。持経ノ宿に着く。持経ノ宿の先は雪はまったく無くなっていた。その先少しだけ林道を歩く。この林道を辿れば下界に帰れる、そう考えるだけで安心感があった。平治ノ宿までの道は疲れていたのでしんどかったが、しかしなかなか素晴らしいところだった。森が美しい。巨木も何本も。1000年ヒノキ、巨大なミズナラ、他、歩いていて楽しい。平治ノ宿の手前15分ほどの小ピークからは携帯がつながった。本宮を目指して縦走することを伝えておく。平治ノ宿は、なかなか素晴らしいところで、小屋を見て、ここに泊まることを即決してしまった。ザックから濡れているもの、テント、シュラフ、テントシューズ、他、いろいろなものを乾かす。日差しが暖かい。水場に降りて行き、久々雪以外の水を汲み、飲む。美味しかった。6㍑くみ上げて、戻る。
小屋の中には囲炉裏があったので、木を集めてきて燃やした。煙が充満して大変だったけど、非常に心が落ち着いた。飯は相変わらず乾燥野菜カレーとアルファ米。食料も随分と減った。余裕は十分にあるけど。燃料においては余裕さらにある。ずっと焚き火を楽しんでいたら時間が遅くなってしまった。外に出ると半月の月が美しい。遠くには街の光。随分久しぶりに見た気がする。気温はまだちょっと寒かったけど、ほのぼのとしたいいサイトだった。

タイム
6:40@深仙 〜7:15@太古の辻 7:25〜8:40@天狗岳 8:55〜9:55@地蔵岳 10:05〜11:10@剣光門 11:25〜12:00@涅槃岳 12:10〜13:00@阿須迦利岳 〜(休憩1.5回)〜15:00@平治ノ宿

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