利根川

宝川でたき火をし、泳ぎ遊ぶ

朝、七時に起きる。ほんの少しの二日酔い。疲れが残っているらしい。改めて川を偵察。なかなか激しい流れだ。緊張するべき場面なのだけど、顔は少し綻んでいる。パンを食べ、出発の準備。川縁にカヌーを運び、荷物を積み込み、準備を整える。川の水は少々冷たい。流石に少しの緊張感が漂う。イトーと一緒にカヌーをするのは、一昨年前の四万十川(パスワード:4115)以来。二人でカヌーに行くのはさらに以前の那珂川以来だ。イトーの譲ってもらったカヌーに焼酎をかけ進水式とし、それから漕ぎ出す。ほんの少しの練習をしてから、白く泡立つ瀬に漕ぎ出していった。
いい気分だ。気分は最高。流れは速く、あちらこちらにある、ほんの少し水面に出ている岩をすり抜けつつ、下る。イトーも沈せずににこやかに笑いながらついて来ている。流れは激しく面白い。いい感じだ、と思って後ろを振り返ると、カヌーがひっくり返り、荒瀬の中を流されているイトーを発見した。
岸に着け、水を出す。まだ150mほどしか進んでいない。早速来ました、そんな感じ。
気を取り直して出発。ルート図に「ホタル」と書かれている瀬に向かう。近づくにつれ、その水流の激しさに震える。なかなか凄まじい流れだ。豊富な水量が落ち込み、三段ほどの真っ白な大きな波が立っていた。イトーは右寄りに、僕は真ん中を行くが、その激流に入った、と思ったらイトーが沈、お〜い!と言おうとしたら、こちらも大きな波をくらって、カヌーが吹き飛ぶ。その瞬間はスローモーション。真っ白な流れの中で、カヌーが回転しひっくり返り、頭から水中に沈んだ。
激しい水の躍動。真っ白な泡の中を浮かび上がるが、頭上にカヌーがあって、水面に顔を出せず。揉まれながら、カヌーを押し、水面に顔を出したと思ったら、次の大きな波に飲みこまれ、また水中に沈んだ。うねる水のざわめき。叫び。ウッキョー、激し過ぎ!そう思いながら、もみくちゃにされながら流れる。ホタルの落ち込みを過ぎ、ほんの少し流れが落ち着いたところで、ひっくり返ったカヌーをひっくり返し、その上に這い上がった。ふぅ。
まともに下っていて沈したのは初めて。過去に四万十川でひっくり返ったが、あれはレスキューしようとして気をとられているうちに流れをくらってひっくり返ったものだし。しかも今回はインフレータブルカヌーだ。このカヌーはかなりの流れでも平気なのだけど、今回は吹き飛ばされた。
イトーは無事川岸にたどり着いたが、イトーのカヌーはどんどん流されていく。回収すべく、追いかける。が、後に続く激しい流れ。しかも水が入っているからものすごく重く、押しても全然動いてくれないカヌー。瀬の中での回収は諦め、淵を探すが、全然ない。流されるカヌーと並走していたが、激しい流れの直前でカヌーの上に自分のカヌーが乗り上げてしまい、ヒヤリとする。カヌーの中に入れてあった予備パドルが流されていくのを目撃したが、為すすべがなかった。1kmほど瞬く間に流されたが、流れが緩やかになる手前のテトラにカヌーが少し引っかかった。慌てて下流に行き、カヌーを飛び降り、スリングを引っかかったカヌーに引っ掛け、流れるのを防ぐ。が、その後カヌーが動き始め、引っ張られて危うくそのまま水中に引きずり込まれるところだった。踏ん張って耐える。その際に手を怪我したが、そのまま粘って、なんとか手元まで引っ張ってきた。
落ち着いて見ると、両すねを結構打ち付けていた。ふぅ。楽しかったけどちょっと激しかったかな。水の詰まったカヌーから水を抜くのには苦労した。自分も水中に入り、カヌーをひっくり返し、何とか水を抜き、陸に引っ張り上げた。
遥か上流に取り残されたイトーは、歩いてこちらに向かってきていた。しかし、川の中は激しい流れ出し、下手に泳げないから、陸を苦労しつつ歩いてきたみたい。流されてから一時間を過ぎて、ようやく合流。ちょっと長めに休憩を取る。
気を取り直して出発するが、その先でイトーが再び沈。初めて使用するカヌーで、この流れは激し過ぎたかも。その先には「ナイスビュー」と名付けられた月夜野橋の恐ろしげな瀬。自分のカヌーで行くかぎり、通過する自信は100%あるのだけど、相棒は厳しそう。死んでしまうことはないかもしれないけど、そこに行くのは流石に無謀な気がした。話し合いの結果、撤退を決定する。
が、その場所から道路に戻るのはなかなか至難の業だった。流れが激しく、渡渉しようとしたが胸ほどになり流されたので諦める。上流に戻り、川岸に近づけるところまで行った。そこからは無事道路にいける。河原には、パドルが数本。ラフティングで放出してしまったものだろう。
カヌーを運んでいくが、流されかけ、苦労する。イトーが車を取りに行き、その間、カヌーの荷物を運ぶ。日差しきつく、河原にいるのは辛かった。
戻ってきたイトーと二人でカップラーメンを食べる。オイルサーディンも食べたが、美味しかった。東京からやってきて、わずか2km強で終了してしまった。こんな旅もまた良し。
荷物を車に積み込み、午後二時。このまま帰るのも勿体無いので、川の上流に泳ぎに行くことにする。向かったところは宝川の林道。この川の上流はナルミズ沢として知られている。適当なところで車を停め、川の中を歩く。日の差すいい淵があり、そこに荷物を置き、たき火を起こしてから泳ぐ。最大水深2.5〜3m弱の泡立つ淵に、手前から潜り、水底をゆっくり進むと、岩魚が数匹、流れの中にいて、その美しい姿を楽しむ。本当にきれいだ。水も澄んでいて最高!来て良かった。泳いで遊び、体が冷えるとたき火で暖まった。森は美しい。奥利根の森だ。水中にはカジカもいて、その愛嬌ある姿が愛しかった。澄んだ流れはいつ来てもいいものだ。
戻って、諏訪峡の温泉に入り、移動。途中で見た、夕日に輝く入道雲は、夏のいろいろな思い出と重なって、何だかやたらと切なかった。沼田に行き、「あおぞら」という焼肉屋で夕食を食べてから帰ってきた。僕の家に着いたのは夜の十時過ぎ。イトーお疲れさま。カヌーでは大した距離は進めなかったけど、なかなか面白かったよ。
疲れ切って、机の下でいつの間にか寝ていた。