口永良部島二日目・・・シーカヤッキング&シュノーケリング

起きて日の出を拝む。ラーメンを食べてからさっさと移動する。西の湯へ。その隣に小さな船着場があって、そこからシーカヤックを出航させる。
西の湯に着いて、出発の準備をしていたら、軽自動車に乗って釣竿を持ったおじさんがやってきた。準備を整え、シーカヤックを海縁にまで運んだ。とほんの10分ほどの時間におじさんはアオリイカを6匹ほど釣り上げていた!!すごい!と話しかけてみる。その3分後には追加で三匹ほど釣り上げていた。水中を見ていると、アオリイカが餌木(エギ、疑似餌)にす〜っと近寄ってきて、タイミングを見計らって抱きついてくる。餌木の動きはエビそのもの。感心していると「趣味と実益を兼ねていてね」とおじさんはニヤリと笑い、いろいろコツを教えてくれた。昨今釣りをやり始めたのは、アオリイカを釣り(そして美味しいゴロ煮を作り)たいからだった。でも僕はまだ釣り上げたことない!目の前で釣り上げてもらい、竿の使い方、釣り上げ方等非常に参考になった。今度同じように試してみよう。
さて、出航。西の湯の船着場は湾内にあるので、波はあまり立っていない。海岸沿いに西に向かって進む。水が透き通り海底がよく見える。まだ八時過ぎなのだが、日差しがきつい。きらめく水面。遠くには硫黄島が煙を吐きながら堂々と横たわっている。左手に見えるのはわずかながらの砂浜である西の浜。その先にはゴロ石だらけの浜。水面下にヘギ(オヤビッチャ)がその黄色のストライプを鮮やかにきらめかせながら泳いでいる。黒い大きな魚の群。その先に小さな釣舟。地元のおじさんがノベ竿でヘギを釣り上げていた。こんにちは、と挨拶する。シーカヤックの楽しさを噛み締めながら漕ぐ。
その先、砂利浜が終わり、断崖となるところから気を引き締めて漕ぐ。外洋には昨日からのうねりがまだ残っている。湾内から抜けると急にうねりがひどくなってきた。岩礁に乗り上げないように気をつけながら、岸からそんなに離れない位置を漕ぐ。大きなうねりが来るとカヤックが上下に大きく揺れる。その中をパドルを漕ぎながらバランスを取りながら進む。不安はない。でもまったくないと言えば嘘になる。海の濃さ。深青の海が手元にはある。もう少し断崖に近づくと水面下の大きな岩が見えてくる。左には打ち付けるうねりが波に変わり、真っ白になっている。右は見渡す限りの大洋、そして遠くに硫黄島。空にはミサゴが舞っていた。
先に進む程うねりがひどくなったが、まあ大丈夫だった。ただ帰りもここを通るとなると少しだけ不安になる。まだ海のダイナミックさに感覚が慣れきっているわけではない。岩礁帯を過ぎ、岩屋泊の湾内に入る。そこで数頭のイルカの群に遇う。その距離30m。背ビレが見えた時はドキッとしたが、すぐにイルカだとわかってほっとした。でも好奇心で近づいて来られるとちょっと怖いなとも感じた。群はやがてうねりの中に消えていった。湾内は奥に入っても、水深が深い部分が続いていた。ここ岩屋泊は人工物は何もない湾なのだけど、避難港になっている。波の穏やかさ、そして砂地で深い地形を見て避難港になっていることに納得した。古くは倭寇の港だったとも聞く。
ここ岩屋泊は、先月末に来た時に絶対に泳ごう、と思っていた場所だったので、湾の一番奥に進み、そこで上陸。おびただしい数のフナムシ。何だか気が滅入り、少し場所を移して再上陸。マスク、シュノーケル、フィンを付けて湾内に泳ぎ出る。一番奥はどんよりとしている。水深2mを超える深さになり始めると魚が増え、雰囲気がよくなってくる。
カマスが海面直下を泳ぎ回る。眼下にはブダイ、ヘギ、チョウチョウオ、フグ、その他いろいろな魚が泳ぎ回る。砂地からリーフがせり上がるところまで泳いでいく。深く潜り、ゆっくりと浮かび上がりながら、その景色を堪能した。
小一時間泳いでから、カヤックのところに戻る。靴を履き替えたら、中でモゾモゾっと動いてフナムシが飛び出していった。鳥肌が立つ。と、ジッパーを閉めたところもう一匹が中にいたらしく、足の甲を這いずり回り、脱出を試みていた。慌てて靴を脱いで外に逃がす。カヤックに乗り込み、湾の北の入り口に向かう。その先のナゲシの所は波が荒かった。先に進むか悩んだが、今日はまだうねりが結構あった。この辺りで引き返すことにした。誰もいない離島の海岸線。その孤独感は楽しくもあり、不安も煽る。
岩屋泊の湾を横切るようにして戻る。深い青。水深はどれぐらいあるのだろうか。沖合いには白波が立っている。海面を吹く風と、潮流がせめぎあっている場所。さっき漕いで来た断崖をまた進む。岩峰が美しい。その先には口永良部の山々が見えてきた。
西の湯のある湾内に戻り、上陸する場所を探した。そして、西の浜の砂浜に上陸する。入り口が狭まっていて、しかも浅いのでカヤック一隻が何とか通れるぐらい。慎重に通る。その先は扇型に広がる小さな砂浜。上陸。南国そのもの。砂浜にはヤドカリが動き回る。
シュノーケルとフィンを付けて、沖に泳ぎ出る。小さな湾内は淡水が混じり、靄がかかりそして冷たい。しばらく浅い所を泳ぐ。ここはNTTの海中ケーブルが延びている。やがて深くなる。水深は6mほど。岩礁の上にはサンゴ礁が広がる。そしてたくさんの色とりどりの魚の群。岩礁が途切れ、その先には砂地が広がっていた。そこに揺らめく海面の影の美しさ。岩礁とのコントラスト。海面直下には魚の稚魚。これは美しい。深く潜り、広がる砂地とさんご礁と水面のきらめきに見惚れる。派手なサンゴがあるわけじゃない。でもここの海の美しさは本当に素晴らしかった。
小一時間泳いでから、浜に戻ってきて、ヤドカリと戯れ、貝殻を拾い、そして絵を描いた。贅沢な時間だ。これに折りたたみ椅子とトロピカルジュールがあれば言う事なしなのだけど、そこまでは準備していなかった。のんびり過ごす。砂浜に手を差し込むと砂浜の下を流れる水が冷たく心地よかった。
そこそこのんびりしてからカヤックに乗り、出発。西の湯の湾の東側、折崎の近くまで行って引き返してくる予定で進む。湾の東側はうねりがそこそこあった。と行く先から一隻の船が真っ直ぐこちらに向かってくる。なんだなんだと思っていると、少し手前で止まり、声を掛けられた。カワヒガシさんだった。「朝、向こう(岩屋泊)の方に漕いでいったよ、と(釣り船のおじさんから)聞いたんだが、まだうねりが大分残っているし、なかなか戻ってこないし、夕方五時を過ぎても戻ってこなかったら消防団を呼ぼうと思っていたよ」と話しかけられる。いやいや大丈夫ですよこのぐらい。途中で泳いで遊んでました、と話をする。安心したカワヒガシさんと別れ、折崎の手前まで進んでから引き返し、西の湯の船着場に戻る。
カヤックを片付けてから、寝待の温泉に行った。ここ寝待の海もなかなか眺めが素晴らしい。と、男湯に入ると、そこにはおばさんのものとおぼわしき衣類がいくつか。間違えたか!と外を見ると男湯だ。その横に張り紙があって、女湯は湯量が少なくなったので、混浴になる(男湯に女性も入る)ことがあると思うが、お互いの人権を尊重し、誤解のないように云々、と書いてあった。男湯から女性の声が響き渡る。入りづらいな、少し待つか、と外で待っていた。
が、半時間ほどしてもまったく出てくる気配がない。男湯は脱衣所から階段を何段か下ったところにあるのだが、露天ならまだしも密閉空間に閉じ込められるのはい辛い。そこには40〜60年前にはきっとセクシーだったに違いないおばさんたち数名が、タイル張りの浴室にわんわんと声を響かせながらのんびり入っていた。これは厳しいなぁ。最初から混浴とわかっていればまだしも、しかも露天じゃないしなぁ…鳥綱キジ目キジ科のチキンになって帰ることにした。仕方がない。
昨晩泊まった湯向に行き、ここの温泉に入る。ここは湯の花が豊富で、ポカポカと温まるいい温泉だ。
西の湯に戻る。朝見たアオリイカを自分でも釣れないかと竿を持っていったが、イカは全然居なくなっていた。広島大学の学生さんが魚類の生態調査をやっていた。広島大はここ口永良部に30年ほど来ているそうな。
夕方、民宿くちのえらぶに行く。硫黄島の眺めが素晴らしい。この島は外食がまったくない。食料品店はあるが、何日か滞在するなら、民宿に泊まりたくなる。民宿に一人で泊まるのは実は初めて。社会人になってから出張の時にビジネスホテルに泊まるようになったが、そもそもプライベートで国内で宿に一人で泊まること自体、実は初めてのことだった(これまでは毎回野宿していた/ネパールに行った時は宿に泊まった)。他には図書巡回車の方も泊まっていた(口永良部には年に一回来るそうな)。晩飯を食べ、ほっと息をつく。
食後は本を読んだ。幼稚園か、小学一年生かとにかく20年以上ぶりに「モチモチの木」という絵本を見つけて読んで懐かしかった。絵本の中に出てくる「霜月二十日の晩…」というフレーズをずっと覚えていたのだけど、正確には「霜月二十日の丑三つには…」だったので、記憶は書き換えられていくのだなと思った。幼き日々のイメージを懐かしく思い出しながら何度も読み返した。
ゲド戦記が揃っていたので、まだ読んでいなかった5巻目「アースシーの風」を読む。ゲド戦記は結構好き。宮崎アニメのゲド戦記はイメージを壊されそうな気がしてまだ見ていない。
読み終わると気が付けば深夜一時となっていた。部屋に戻り、熟睡。