巡視一日目(淀川登山口〜宮之浦岳〜新高塚小屋)

朝5時に起きようと試みるも結局六時半過ぎまで寝ていた。慌てて山に行く準備を済ませて家を出る。休日なのだが、一泊二日の巡視に行くことにした。振替も何も取っていないので完全に無給のサービス仕事なのだけど、1.今年発注している業務をより高めるために取りたいデータがある、2.シーズン最後の三連休の状況を把握したい、3.来週仕事では別の場所に行きたい、4.とにかく山に行きたい、5.登山道の工事の様子を見ておきたい、等々、理由はいっぱいあって、その心が山に行く衝動を駆り立てた。
淀川登山口に着いたのは8:10。たくさんの車。手前の道路にも20台ほど路駐している。パジェロに乗っていたおじさんに話しかけられる。
さて出発。1.の理由にも書いたのだけど、今年度の業務で、登山道上の任意の点における前後左右の360度のパノラマ画像を見ることが出来るシステムを発注している。もう少し具体的に言えば、例えば、登山道の途中でも、花之江河でも、水場でも、途中の木道でも、宮之浦山頂でもどこでも、指定したところの360度の写真を得ることが出来る。何故そのようなシステムの導入を考えたかといえば、利用圧により登山道が崩れてきているとか、問題があったとか、いろいろ言われるのだけど、今生じている問題箇所の過去の写真があるなんてことはなくて、全然比較出来ないでいた。それならいっそ、2007年現時点の登山道の様子を全部ビデオに収めておくか、と考えていたのだけど、世の中にはもっとすごい、前も後ろも左も右も全部撮影できるシステムがあったのだった。
このシステムをもう少し具体的に言えば、カメラがいっぱい付いた撮影装置を使って動画で撮影して行き、後で個々のカメラで取った画像(動画)を合成後、地図とリンクして、どこの場所でも見れるようにするシステムなのだけど、地図とのリンクが予算上手作業となるということだった(てっきりGPSと自動的に連動して地図とリンクを張るオプションも付いているのかと思っていた)ので、地形図のどこと動画が一致するのか示す必要があった。要するに今歩いているところが地図上でどこか、というのを示さないといけない。これって、ワンゲルに所属していた僕としては超得意分野かも。
これまでこのシステムは、国土交通省等が道路管理等で発注していたのだけど、登山道で使われるのは今回が初めて。全国のさきがけになる業務で、せっかくならいい仕事をしたいと思っている。
ということで、登山道を少し歩いては、写真を撮り、それが今地形図上でどこであるのかをピンポイントで落としていく作業をやっていく。普段地図読みなんてまったく気にしない無積雪期の登山道上で地形図をこんなに真剣に読むなんてこれもまた新鮮。地形図上の登山道が実際とずれている場所もあり、それもメモしていく。3月に奮発して買ったGPSが役に立つ。そうそうGPSの新たな電波サービス(WAAS)が九月末から始まって、僕の持っているガーミンのGPSもそれに対応しているのだけど、設定でWAASを有効にすると、これまで電波を拾いにくかった樹林帯の中でもよく入り、また正確になったように思う。
一泊二日の装備で、少し歩いては立ち止まりメモを取る、としていたので、肩が疲れた。
淀川小屋に行くと、小屋の前のテラスで焚き火をしている人がいた(自然公園法違反)ので、話をして焚き火を止めてもらう。その後焚き火跡がわからないようにきれいにした。焚き火大好きな僕だが、焚き火跡が残っていればみんなやり始める。ここは宿泊者数が格段に多く、それが許される場所じゃない。その後は屋久島のお勧め場所についていろいろ話をする。
時間がかかる。今日の天気はすごく良かった。その中を歩いていく。小花之江河は氷が張っていた。冬の訪れがすぐそこまで来ている。
投石を過ぎるあたりから、宮之浦岳に登ってきて戻ってきた方や、縦走の方をすれ違い始める。その後本当にたくさんの人とすれ違う。団体のツアー客もたくさん昨晩の新高塚小屋の込み具合は大変だったみたい。
登山道工事は順調みたい。ベースにしている翁岳との分岐のところにはたくさんの作業員の方がいて、昼食を食べ始めたところだった。
少し歩いてはメモを取りを繰り返し、宮之浦岳山頂にたどり着く。山頂は本当にたくさんの人で込み合っていた。ふとこちらを見て手を振る人がいて、なんだなんだと近づいていくと、知り合いのセトさんだった。どうもどうも、と話をする。山頂のポールに木の看板がつけられていた。個人の方が付けた看板。今年だけでも何度か。違反行為になってしまうので、その度に外してきていて、勝手に捨てるわけには行かないから事務所には看板コレクションがある。気持ちはわかるのだけど、こうしたものを残していけば、いつかは落書きも出てくると思う。名前だけではなく、卑猥な単語も残された名勝はいっぱいあって、本当に見苦しいと思う。そんなことはさせない。でも、設置者はそこまで想像が付かないのだろうなぁ。後日談になるのだけど、この日回収した看板は、設置者を特定することができて(京都に住む弁護士さんだった)、他の所にもいっぱい看板をつけている方だったので、電話して抗議・注意することとなった。キーワードを工夫すれば、わずかな手がかりからその人の連絡先まで調べられるインターネットはある意味恐ろしいなと思う。
宮之浦岳山頂を過ぎると、急に人気がなくなった。永田岳の存在感をひしひしと感じながら歩く。沢筋は氷が付いている。宮之浦岳の北斜面の沢筋には雪があった。
登山道上の笹の刈り払いは随分進んでいた。この笹の刈り払いを事業として始めてから、それまでは毎年行方不明者がいたのが、いなくなったのだからすごいと思う。
平石岩屋付近から霧がかかり始める。遠くから資材を運ぶヘリの爆音が聞こえてくる。今日の第二展望台、第一展望台からの眺めは、残念ながら全然なかった。
新高塚小屋には14:30に着いた。一時間先の高塚小屋まで行くかどうか悩んだが、予定通り新高塚小屋に泊まることにした。まだ数名しか来ていなかったが、混むのはわかっていたのでテントを張って寝ることにした。トイレに行くと十数匹の大きなハエの群に襲われる。他の方もトイレに行くと悲鳴を上げている。屋久島の山岳部のトイレはひどいと思う。それを改善するための話し合いを続けているところなのだけど、なかなか進まないのが歯がゆい。でも来年度からは必ず行動に移す。もう少しだけ待っていて。夕方トイレに行くとあれだけいたハエが一匹もいなくなった。誰かが殺虫剤を撒いたのだろうか。その殺虫剤入り(かもしれない)し尿が周辺に埋設される・・・これは何とかしないと、と思う。
テントの外でおじさん一人と若者が話をしている。出て行って話を聞くと、日帰り縦走の装備不十分そうなおじさんが一人。宮之浦岳縄文杉両方に行きたくて、でも時間が一日しか取れず、日帰り縦走の予定でやってきたとのこと。もう15時なのにまだ新高塚小屋にいた。標準タイムより時間がかかっている。この先の道がどうなっているのか、話を聞いていた。白谷雲水峡に抜けると言っているので、おそらく疲労度も考慮すると6時間ぐらいかかるかも。夜の九時か。驚くべきことは、登山道の様子は全然調べていなくて、途中からトロッコ道になっていることも知らなかった。真っ暗になるし、泊まれるなら泊まったほうがいいですよ、というが、泊まりの装備は何も持ってきていないんですよ、確信犯ですね、はは、と笑う。ふざけるな、旅の形態は自由ですが、何も調べずに無茶な計画を立ててやって来るあなたのような方には正直来てほしくないですね、と嫌味な枕詞をつけた後、水場の位置、携帯電話の通じる場所、縄文杉からのルートの様子、日が暮れるまでにトロッコ道まで抜けること、その後、白谷雲水峡に向かうルートの分岐がわかりにくいこと、白谷雲水峡のルートの様子等の情報を提供する。
旅の形態は自由なんだけど、所謂登山の常識を持っていない人が屋久島の山は多過ぎる。旅行雑誌なんかに載っているから、勘違いしているのかもしれない。山道具のレンタル屋さんも多いし。そして装備不十分な人もたくさんいる。山慣れた人にどうこういうつもりはない。ナイトハイクも楽しい。僕も先月は朝4時から夜の7時半まで歩いた。でもそれはやっぱり慣れた人だからこそだと思う。人間なかなか死ぬもんじゃないのだけど、まして屋久島に来た時に「登山道の高速道路」と僕が呼んだぐらい整備された登山道で死ねるもんでもないのだけど、現に昨年は死者や重傷者が出ていて、事故はやっぱり起こるものなのだと思う。そしてそれは疲労感からとか、無理な計画からだとか、理由をたどればそんなものなんだ。起こった事故を分析して、場合によっては過剰な整備がされていく。そしてますます慣れない人がやってくる。そんな悪循環。屋久島の山は素晴らしい。そして多くの人にその素晴らしさをわかってもらいたい。でも、山に入る時のマナー・意気込みを身につけてから来る事は必要だと思う。
テントに戻る。今朝は慌てて出てきたので、凝ったものは何も持ってこなかった。フラスコに入った三岳をお湯割でいただき、マカダミアナッツのチョコレートをつまみにする。く。テントの外には徐々に登山客が増えていく。
16時ぐらいに一度眠りについた。17時ぐらいに目が覚めて、キャンドルランタンに火を灯し、ゆったりとした時間を過ごす。
20時を過ぎて再び眠りに着いた。