東黒沢、ナルミズ沢 沢登り初日


【3年前に書いたままアップしていなかった山の記録をアップ(2012/8/11)】
夜半はあまり眠れなかった。一つはシュラフのそばにいたカマドウマが、眠りに付こうとすると大胆にも何度もタックルを繰り返してきたこと。ライトを照らしても逃げずにガンを飛ばしながら近づいてくるのだからなんて大胆な虫なんだろうかと思う。もう一つは天候とそしてまだ沢に完全に慣れたとはいえない初心者を連れて沢に行くことの不安があったのだと思う。何度か何者かに首を締め付けられるような悪夢を見て、小さくうなされていたことに気が付く。枕元のナタがあって良かったと思う。
さて、どんよりとした天候の下、朝の四時には起きてお湯を沸かし、お茶を飲み、朝ごはんを食べた。
天気予報を聞き、空を眺め、雨が降るとしても大したことがない、と判断した。準備を整え、高度計を690mに合わせ、5時半を過ぎてから出発する。少々の武者震い、そしてブナの森の中に入っていくときめきがそこにはあった。
薄暗い淵を見るとイワナが泳いでいる。嬉しかった。少し荒れた変哲のないゴーロを歩いていくと、次第にナメが出てきて沢歩きが格段に楽しくなる。そうそうここのナメの素晴らしさ。8年前に訪れた時は大増水の翌日だったので、今回は水量はずっと少ないが、それでも沢は本当にきれいだ。しばらく行くと20mハナゲノ滝に到着する。巻き道はしっかりとした道となっていて、道迷い防止のロープまで張ってあり、やや興ざめする。滝の上もナメは続く。沢全体が樋状だから、増水になったら恐ろしいのだろう。何度も空を見上げ、雨が降らないことをただひたすらに祈った。
白毛門沢を分け、東黒沢に進む。相変わらずナメとゴーロ歩き、小滝が続く。少し大きめの滝も全て簡単に登ることが出来る。太いブナを見ては嬉しくなってはしゃいだ。地図読みの練習のため、支沢ごとに現在地の確認をタッキーさんにさせたが、7割ほど間違えていたので、まだまだこれからだなと思った。しばらく行くとポツポツと細かい雨が降り始める。気持ちが憂鬱になったが、標高は900mを越え、また激しく降る様子はなかったので、そのまま進むことにした。
何箇所か大きな開放的な滝があり、簡単に直登してはしゃぐ。何箇所か8年前の記憶がフラッシュバックして、まだ頭に残っていたその鮮やかなイメージに、心を奪われていた。みんな元気にしているのだろうか?その後も快適なナメ歩き・ナメ滝登りを続け、1000mを過ぎて休憩した。
その後は段々とただのゴーロ歩きの平凡な沢となる。時々小滝があって、支沢を分けながらぐんぐん高度を上げていく。途中、木から変わった黒い線上のキノコが生えていた。1200mを越えて水汲みをし、そのまま詰めあがって1350mの丸山手前のコルに出た。反対側から6名ほどのグループが詰めあがってきて東黒沢に下っていった。このコルを訪れるのは3回目だが、かつて倒木につけたナタ目を探したが見つけることは出来なかった。
少し休憩した後、ウツボギ沢一ノ沢の下降を開始する。赤布が付いていて踏み後もはっきりしている。この沢はどんどんメジャーになっているようだ。源頭からは烏帽子岳や布引山がよく見えた。10年前、あの稜線の藪を漕いでいたんだなぁと懐かしく思う。ウツボギ沢一ノ沢は変哲もない沢だが、咲いていたトリカブトが色鮮やかで美しかった。2回ほど手がかりロープを出しながら、さくさくと下っていく。ウツボギ沢本流に出ると、間もなく広河原に到着した。焚き火のあとがたくさん。時刻は10:30。いいペースでここまで来ることが出来た。天気はややマシになって高曇り。ここは携帯電話が通じるので、緊急連絡先にしている実家にメールを入れておいた。
少し休憩してから、ナルミズ沢の遡行を開始。川幅が広がり、開放感があり気持がよい。渇水が続いていたのか、沢のなかには緑色の藻類が生えていた。目を凝らしながら歩いて行くと沢のあちこちに魚影を見ることができた。狩猟本能がうずく。渓流釣りは長らくしていないが、心がときめいた。
さて、最初にちょっとしたゴルジュ帯がある。盛夏なら泳いで行くのだろうが、どんよりと曇った今日は泳ぐ気がしない。左岸をへつってその先の滝まで進む。滝の釜の入り口で右岸にわたり、見上げる。ナルミズ沢で釜にはまって上がってこなかった人の話をタッキーさんにしていたのだけど、そこがここかもしれないよ、という話をポロリとしてしまったら、急に顔には恐怖感が映り、変なことを話してしまったなぁとわずかに後悔の念があった。前に来た時は確か滝の落ち口に向かってトラバース気味に登ったはずだったが、そんな話もあったので釜にはあまり近づかないように直上したのだけど、逆層気味で、荷物も重かったこともあり、スタンスに自信を持てず、少しばかり緊張しながら登り、タッキーにはロープを出して確保して登ってもらった。
この先はただひたすらに心安らぐ釜と小滝とナメの連続(写真)。ちらほらと岩魚の魚影も確認できる。夏なら泳ぐのになぁ、と言いつつ、少しずつ色づき始めた渓畔の森を眺めながら、心はかなりの満足感に浸りながら、ゆったりと登っていく。これが奥利根の沢の美しさ。簡単にへつりながら、澄んだ水に心を洗われながら進む。いいなぁ。
途中で休憩。まだ昼過ぎだ。岩の上に横になり、空を眺め、非日常的時間をかみしめる。流れる沢の音が心地いい。かつてここに足を運んだのは8年前。あの時一緒に沢を登った6人は元気にしているのかなぁ、なんてノスタルジーにも浸りながら、ゆったりと過ごす。
沢を進み、ピラミダルな形状の大烏帽子山が見えてくるとほどなく大石沢出合いに到着。まだ12:30だ。サイトをどこにするか悩み、荷物を置いて少し先のところまで見に行った。80mほど進んだ左岸に良い天場あったので、そこに泊まることにした。荷物を取りに戻り、タープを張って一段落。タッキーさんはなんとリンゴを背負ってきていて、午後一のデザートとしていただいた。美味しかった。増水に耐えられ、手前には川原もあって本当にいい天場なのだけど、泊まる人も多いのか、薪があまりない。薪集めにはやや苦労した。
さて、川虫を捕まえ釣りの準備を整え、久々の渓流釣りに挑戦する。まずは大石沢出合まで戻り、その釜を狙う。滝の上から釣ろうとしたがイワナは寄ってきたものの食いつかず、その後下に降りて左岸から隠れ気味に狙うとまずは20cmのイワナを一匹釣りあげることができた。久々に見たイワナの美しさにうっとりしつつ、ホッと一安心。これでプライドが保てる。その後はタッキーさんのサポートに回るよ、と宣言したものの、大石沢出合いから上に向かって滝を越えたすぐのところで魚影が見え、タッキーさんに貸していた釣竿を奪って放り込むと一投目で20cm強のイワナをゲット!ニコニコしているとやや冷たい視線のタッキーがそこにはいた。天場の近くの水たまりを生簀として釣り上げたイワナを放して釣りを続ける。さらにその上の淵で、タッキーさんが一匹釣りあげる。初めてイワナを釣りあげたらしい。針を飲み込んでしまったいたので、天場にペンチを取りに戻り、外した。そう今回は釣針の予備を1つしか持ってこなかったので、できるだけ慎重に取り扱った。
同じ釜でもう一匹が釣れそうなのだけど、渓流釣り初心者のタッキーさんはなかなかいいポイントに餌を流せないでいる。10投ほどした後に、ちょっと見本を見せよう、と言って竿を奪い、投げ込むと1投目にして食らいついてきた。ほらね、とニコニコしているとタッキーからはやや冷たい視線を感じたが、その半分には尊敬も入っているものと解釈しておこう。その少し上の淵でタッキーさんが24cmほどのオスのイワナを釣り上げる。なかなか立派。食べる分は十分釣り上げたので、釣りは終了。サイトに戻って天気図を取り、夕飯の準備を進めることにした。
曇っていた空は少しばかり晴れてきて、朝日岳山腹の岩肌が美しい。夕刻になっても結局他のパーティーは現れず、この素晴らしい沢を二人で独占することになった。生簀に生かしておいたイワナは二匹だけ食べることにして、網で捕まえ、腹を裂く。メスのイワナからは過去に飲み込まれた釣針と、筋子が出てきた。タッキーさんは24cmの岩魚を食べることになり、慣れない手つきでさばいていた。ササを切って串刺しにし、焚き火を起こしてかざす。じっくりとあめ色になるまで燻し上げて食べるのが好きだ。晩御飯は米を炊き、そしてポークチリビーンズを作る。ビールを飲み、ベーコンを焼き、屋久島の焼酎三岳を飲み、浅漬けを食べ、タッキーさんが漬けたクサボケ酒をいただき、岩魚の燻製に舌鼓をうつ。日は暮れ、焚き火の煙はその火に照らされながらゆっくりと空へと還って行った。夜空に瞬く星は見えなかったけど、焚き火のそばでほんのりと酔いながら、ほのぼのとした時を過ごす。
夜九時を過ぎてシュラフに包まり、酔いもあって早々と熟睡した。


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