ナルミズ沢 沢登り二日目


【3年前に書いたままアップしていなかった山の記録をアップ(2012/8/11)】
夜半雨の音で目が覚める。身を起こし、暗闇の中、沢の音を凝視する。今のところ大丈夫そうだ。天気予報はそんなに良くはない。日本海を通過する低気圧の影響で前線がやや活発化している。昨夕は晴れてきていたので呑気に考えていたのだが、増水すると恐ろしい沢ゆえ、しとしとと降り続ける雨音を聴いていると不安も広がってきた。とりあえず大雨ではないので翌朝を待つことにして再び眠りに就いた。でも耳元には雨音という名の不安が囁き続けていた。
と、五時半には出られるように四時半には起きて準備をしようと話をしていたのに寝過した。目が覚めると五時を過ぎている。タッキーさんも爆睡していて、何度か呼びかけてようやく起きてきた。雨はほんのわずかながらパラパラと降っている。ガスがかかり、朝日岳の展望はない。どうしたものかと思いつつ、とりあえずお湯を沸かしてラーメンを作って食べた。外はだんだんと明るくなっている。天気予報を聴き、そこまで悪化しないようなので、一抹の不安がないわけではないのだが、先に進むことにした。
沢の横の水たまりに生かしておいた3匹のイワナを逃がし、準備を整え、予定より30分ほど遅れて、6時過ぎにようやく出発。沢はガスがかかり、朝一の沢の水はかなり冷たく感じられた。
昨日よりも山の彩が増している。秋をひしひしと感じながら、澄んだ水を切って先に進む。相変わらずナメと小滝と淵が続く。広めの淵はまくことができず、観念し腰まで水に浸かった後によじ登って先に進む。
その後もきれいな淵と小滝を進む。S字峡は左岸の泥々の踏み跡をたどって巻く。かつて来た時はパーティーの中で一人だけ巻かずに越えたのだけど、今日のどんよりとした空の下では寒々しくてパスすることとした。魚止の滝8mは右壁を慎重に登り、タッキーさんにはロープを出して確保した。ナメとゴーロを歩いて行くと意外なほど大きな滝が出てくる。7×15mの斜瀑だ。こんなのかつて来た時あったかなぁと思いながら登る。越えると二俣。右俣に進む。水流が随分と細くなって、ナメがひたすら連続する。ガスがかかり、視界はきかない。途中ポットホールがあった。ポットホールがたくさんあった屋久島の花崗岩の沢を懐かしく思い出す。傾斜の増してきたナメ滝を快適に越えていくが、上部で二か所小滝で少しばかり注意して越えるところがあった。8:30に水汲み。ナナカマドが真っ赤に色づいている。そして今回も霧で何も見えない中、天国の草原の詰め上げる。展望はないのは残念だけど、雨がそれほど降らなくて本当によかった。8:55に稜線に上がって、沢装備を解いた。
さて、重くなったザックを背負って出発。半藪の稜線を行く。稜線は細く切れ落ちた部分も若干ながらあるのだけど、幸いにしてガスの中を歩いているので全く怖くない。木々の色づきが美しい。標高を上げてきたことを実感する。途中からタッキーさんがバテバテ。最後の笹藪の急登は、濡れていることもあって滑りやすく、本当につらそう。30分ほど苦しんで、10:40に登山道に出た時には疲れ果てた顔をしていた。休憩してから朝日岳に向けて歩く。
少し展望がきくようになって見渡せる。山肌は紅葉の黄色・オレンジ・赤が広がり笹の緑と相まって素敵な色合いを醸し出している。ガスがかかっているがおかげで紅葉にしっとりとした質感が加わって、より味わいのあるものにしている。上越の秋に立ち会って、なんだか心が本当に洗われた気がした。朝日岳山頂を11:20に通過し、稜線を黙々と歩く。稜線上はガスもかかるが、見渡せないわけではない。12:20笠ヶ岳山頂到着。少し休憩した後、タッキーさんは元来た方向を向いて歩き始める。大分疲労がたまっているみたい。白毛門山頂への登り返しは少々しんどい。13:25白毛門山頂到着。後は下りのみ、と気が楽になる。
が、疲れもあって、ゆっくりと下る。登山口には16:00にようやく到着。土合駅まで歩くと、10分も経たないうち水上行きのバスがやってくることが判明し、急いで着替えて、何とかバスに乗った。ラッキーだった。
水上駅では、ビールで乾杯。美味しかった。電車の中では爆睡したが、高崎駅手前で目が覚めると喉が痛い。風邪をひいたみたい。バチあたりなのかもしれないと思ったりもした。
東京は遠かった。西千葉の宿舎まではさらに遠く感じた。
しばらく離れていた本州のブナの森。ブナの森に流れる美しい沢を歩き、滝を登り、魚を釣り、焚き火をし、上越に訪れた秋を感じ取ることができた。それは、懐かしさと美しさに彩られた、素敵な沢登りだった。


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