上越巻機山 米子沢 沢登り

夜はあまり眠れなかった。まず、蚊の来襲があって、腕を刺される。かゆかった。シュラフカバーの口のすぼめておくと蚊は入ってこれないのだがそうすると息苦しい。そのうちパラパラと雨が降り始める。折りたたみ傘を持ってきていたのでそれを広げる。快適。雨の中で外で寝るのは久しぶりだなぁと思いながらウトウトしていたら、近くを通った人々が、「おい、雨の中で外に寝ているよ、気づいていないのかなぁ」と話をしていた。幸いにして雨は30分も降らずに止んだ。しばらくすると星空が戻っていた。
今回、かなり天気を心配していた。木曜日までは予報は非常によかったのだが、金曜日に入ってから日曜日の予報が悪くなり、土曜日昼に予報は最悪になり非常にヤキモキしたが、夜に少し持ち直した状況。予報では午前中は晴れるが、午後は雨が降るとのこと。とにかく朝早くに出て、さっさと登ってしまおう、そんな計画を立てていた。
4:20に起床。朝食を食べ、トイレを済ませる。手早く準備を整え、5:05に出発。
「危険 米子沢遭難事故多発中」の看板の横の道路を歩く。空は朝焼けで赤く色づき、美しい。しばらく歩くと左に沢に降りる立派な道。それを曲がらずにそのまま進み、その少し先、この道路の入口からちょうど10分ほど歩いたところ、右に道が曲がる手前にある左に降りる砂利道を下って入渓する。眼前には荒れた水の涸れた河原。そこに真ん中が大きく空けられた平成12年竣工の砂防堰堤が立っている。
しばらく河原を歩く。水は涸れている。15分ほど歩くと水が出てきた。やがてしっかりとした流れになる。さらに15分ほど歩くと最初の滝が出てきた。最初の滝は右から越す。次の2段20mのくの字ナメ滝は確か左から快適に登る。標高1000mでナメ沢に合流。この先はナメ沢と米子沢本流の中間尾根にある明瞭な巻き道を辿り、10×15m滝、3段40m大滝を巻く。3段40m滝の上に巻き下りて、遡行再開。10m滝は釜が埋まっている。遡行図には「3 釜をもつ10m滝は左から巻きそうになるが、よく見ると右側の岩裏にルートがある。ロープ使用でこちらを登った方がよい。」との記述。確かに右側の岩裏にルートがあるのでそこに取りつくことにした。
が、意外と渋い。中段まで登ると残置ハーケンがある。その先が傾斜がきつく、また右から行くか、左から行くかの判断がつき難い。やや恐怖を感じて、残置ハーケンにスリングを付け、落ちてもグランドフォールしないようにハーネスと結びつけた。と、コイケ君から左岸から簡単に巻けそうですよ、との声。下手に取りつくのではなかったなぁと思い始める。が、そうは言ってもしょうがない。覚悟を決めて、登攀再開。残置ハーケンより先は右側にルートを取り、登る。最後のところでややホールドが甘い。慎重に体重移動させて登り切りホッと一息つく。ちょうどカムが効きそうなクラックがあり、後続のニッタ君、そしてコイケ君には、リンクカムの#0.5、#1、#2をアンカーにしてロープを出して確保した。思いの外渋かった。取りつく時はリードしてもいいぐらいかも。
15×25mは簡単に登り、1140mで石がゴロゴロした栂ノ沢が合流する。その先の滝は遡行図との対応が良く分からないが適当に越えていく。そして「4 5m滝はロープ使用で左を登る」に到着する。
この滝は写真で見慣れた滝だった。そう、この滝は8年前に部活の後輩が、やや巻き気味に登り、その後ロープを出そうとしている時に持っていた木が折れて9mほど滑り落ちたが奇跡的に怪我をせずに済んだ滝だ。当時既にOBになっていた自分が企画した上越の沢の一か月後に起きたアクシデント。過信してはいけない、そうした気持ちをあらためて再認識した事件だった。
コイケ君が水流沿いを登る。ハーケンをアンカーにしてニッタ君にはロープを出して確保した(YouTube)。僕も水流中を行き最後は左に抜けたが簡単だった。今回は水量は少なかったのだと思う。水量が多ければ、おそらくだが水流中を抜けるのは難しいのだと思う。
続いて1250mでの右岸からの支沢の合流地点に着く。見上げれば17m滝のスケールの大きな岩盤の上に、青い空と流れる白い雲。流れ落ちる水の鮮烈さと相まって、見事な景観を作りだしている(YouTube)。これは本当に素晴らしかった(前日の写真)。米子沢と言えば上流部の大ナメが有名だが、途中途中の滝、ナメ、ゴルジュの景観は本当に素晴らしかった。
17m滝は中央部をスリップに気を付けながら登り、その先はしばらくゴーロ帯が続く。谷が狭まり始め、多段15m滝に到着。これも素晴らしい滝。水流中を快適に登る。その上で日影沢が左岸から合流。ゴルジュ帯が始まった。
遡行図に6とある最初の5m滝は、右から簡単に越える。続く釜をもつ5m滝は、右岸を水に浸からないようにトラバースして、左から簡単に越える。続く2段10m滝(というより岩がゴツゴツした滝)は、左から取りついて水流中を横切りながら登った。その先の2m滝は、10mほど戻った右岸を一段上がって進み、最後はちょうどいい感じでロープをひっかけられる岩角にロープを引っかけて手がかりとして沢床に戻る。続く釜をもつ2段8m滝は、左から取りつき、中央のバンドを水流を越えて右壁まで移り、その後階段状に右上する部分を登り、最後に左にトラバースして落ち口のあたりに登るルートを行く。先にコイケ君が登り(YouTube)、ニッタくんにはハーケンをアンカーにして水流を越える手前から先の部分を確保した。
さて、その先はぐっと狭まった米子沢最狭部の先にかかるゴルジュ出口の7m滝。ここは僕が先頭を行く。遡行図には「7 ゴルジュ出口の7m滝はロープを使用した方がよい。左を登り一か所ブッシュにランニングをとる」との記述がある。見た目は結構立っていて迫力がある滝だ。ルートはよくわからなかったが、滝の左壁を登り直接落ち口に至るルートで取りつく。最初は突っ張って一段上がる。その後左に張り付き、斜上気味に登る。落ち口手前がやや渋い。最後は水流中の岩に突っ張りつつ登る。結構怖い。後続にはロープを出すとの合図。残置ハーケンがあったが、リンクカムの#0.5、#2(#1もOK)が良く効くクラックがあったのでそれをアンカーとして、ロープを出す。ニッタ君は最初の突っ張りで足を攣らせている。取りつき部分は落ち口からやや距離があるので、ここで落ちると振られて落下距離が長くなる。ニッタ君は慎重に登り切る。コイケ君はサクサク登ってきた。ここはこの沢の遡行の一つのポイントだと思った。
その先の6m滝は左から簡単に越え、見た目が迫力のある2条20m滝は右の急な階段状を快適に登る。高さはあるのでスリップは厳禁。時刻は8:20。この2条20m滝の上で15分ほど休憩した。
遡行図8 2段15m滝は右岸を巻き気味に登る。その先の15m滝は案外悪い。右岸には残置スリングがあり、左岸には落ち口トラバースの手前にRCCボルトがある。どちらか悩んだが左岸を行くが、落ち口の高さまで上がるところ、そして左にトラバースするところが高さもあってやや怖い。コイケ君が先に登って、ニッタ君にはロープを出して確保した。どちら側が良かったのかはよくわからないが、左岸を行くなら初心者にはロープを出した方がいい。
さて、この先は大ナメの始まり。気を付けながら自分で考えてルートを行っていいよ、と言った矢先に、独自ルートを行ったニッタ君がスローモーションに滑り始める。まずいかもっ!とどっと冷汗が出かけたが、幸いにして1mほどで段差があってそこで止まる。止まって本当に良かった。
気を取り直して、ヒタヒタとナメ床を歩く(YouTube)。樹木もすっかり低くなり、稜線は近くなり、その中の変化に富んだスラブの上を水が清らかに流れるという素晴らしい場所(写真)。振り返れば大源太のトンガリが映えている。青い空、流れる白い雲。優しい水の音。爽やかな風。幸福感に包まれながら、ヒタヒタとナメ床を歩く。しばらくすると滝がちょこちょこ出てきたが、どれも簡単に越えることが出来た。
沢の水も減り、すっかり小川になる中(YouTube)、9:45に二俣に到着。右俣にはロープが張ってある。左俣の入り口にはサンショウウオがいてかわいい。その先はイチゴがたくさんなっていて、僕は二粒ほどいただいた。右岸に崩れがあるところの少し先で避難小屋に続く小さな支流が出てくる。水汲みをしてから支流に入る。ほどなく避難小屋に到着した。時刻は10:10過ぎ。いいペースで来ることが出来た。
沢装備を片付け、避難小屋にザックをデポし、少しの荷物を持って巻機山山頂を往復する。雲がかかり、ごく弱い雨が降り始める。夏の巻機山に来るのは2001年以来。やっぱり美しい山だ。割と人がたくさんいて、こんにちは、と挨拶しながら山頂に向かった。
山頂の先でガスストーブを出してお茶をする。ホシガラスが何度か現れた。眼前に連なる上越国境稜線。登山道はないけれど、かつて2度歩いた稜線だ。刃物ヶ崎山も良く見えた。谷川連峰は雲がかかって霞んでいる。眼下には水位を下げた奥利根湖が見えている。
一時間ほどして避難小屋に戻ってくる。11:35にザックを背負って再出発。8合目から先では天気が回復して日差しがきつい。天狗岩が映えている。サクサク下って、12:50に五合目展望台。そこからタクシーを13:30過ぎに呼んで、その先も一気に下る。13:25に無事登山口の桜坂駐車場に到着。2時間で下ってこれたのは嬉しかった。
デポしていた荷物を回収して、13:35にタクシーがやってきた。タクシーに乗って六日町駅へ。料金は5500円ぐらい。風鈴の音が印象的なほくほく線のホームから14:28発の電車に乗り、越後湯沢へ。越後湯沢ではぽんしゅ館で温泉に入り、八海山地ビールで打ち上げをした。美味しかった。
16:08の新幹線で東京へ。上毛高原の手前から上野駅まで爆睡。眠い頭のまま東京駅で降りて、家まで電車を乗り継いで戻る。
家では、相方が晩御飯を作ってくれた。感謝。昨夜の睡眠不足もあって、早々に熟睡した。
行ってみたかった上越巻機山の米子沢。また一つ巻機山の違った側面を知ることが出来て大満足。有名な沢だけあって、巻き道は良く踏まれていたし、極端に困難な場所はなかったけれど、全く持って簡単!というわけでもない沢だった。またいつか機会を見つけて訪れることができればと思う。

※遡行図は「東京起点沢登りルート120」を使用


※写真付き記録はこちら(お散歩観察会のページ)