東黒沢・ナルミズ沢 沢登り初日

敬老の日の三連休を狙って、3年前にも訪れた湯檜曽川の東黒沢、そして宝川のナルミズ沢に1泊2日で行くことになった。面子を絞って難しいところに行くという選択肢も含めてどこに行くかは結構悩んだのだが、自分が行きたいところを優先させるよりも、お散歩観察会レギュラーメンバー(?)に早く上越の沢の素晴らしさ・面白さ知ってもらいたかったので、難しくなく上越の素晴らしさを堪能できるこの沢とした(と書きつつ、東黒沢ナルミズ沢は何度でも訪れたくなるいい沢なので、不満は全くなし)。また、土日で行くか、日月で行くかは悩んでいたが、天気は土日の方が良かったのでこの日程とした。メンバーは、今シーズン一緒に沢に行くのが5回目となるコイケ君先月先々月と一緒に沢に行ったまりりんと旦那さん先月一緒に沢に行ったツージーさん、カナハナさん、そして僕の計6名。
朝5時に起きて、出発の最終準備を進める。ベーコン・スモークチキン・シシトウ・オイルサーディンといったつまみをザックに詰めていたら、起きてきた相方が、6名もいるんだしそれじゃあ少ないんじゃないの?とのアドバイス。結果、カツオの生節も持っていくことにした。電車に乗って東京駅へ。カツサンドを買ってから6:32発の新幹線たにがわ号に乗り込み越後湯沢へ。車両は200系でレトロな感じ。自由席に座ったが、大宮あたりでほぼ満席になった。5名は無事東京駅に揃い、残り1名は大宮駅で合流した。朝早いので眠い。ウトウトしているうちに8時を過ぎて越後湯沢駅に到着。急いで水上行きの各駅停車に乗り換える。いい天気だ。ただ山の上には雲がかかっている。夕立が来なければいいけれど・・・電車から見える谷川連峰の山々を見ながらそんなことばかりを考えていた。そして8:39に土合駅に到着。
いつもは水上方面から来るので、土合駅は地下駅となり486段の階段を登る必要があるのだが、今回は新潟方面から来たので地上駅。これは楽だった。下山後の着替え等の荷物を駅の待合室のベンチ下にデポして駅を歩いて出発。緊急連絡先にしている相方に入山の連絡を入れる。日差しはきついのだけど、白毛門の山頂は雲がかかって見えなかった。10分ほど歩いて白毛門登山口駐車場に着く。この先の川の左岸の道を少し辿り東黒沢に降り立つ。入渓準備を済ませて、9:20に出発。
最近の寡雨の影響か、水は少ない。最近非常に仕事が忙しいツージーさんはフラフラしながらゆっくり歩いている。大丈夫かなぁと思いながら後ろから歩いていく。少しのゴーロを歩くとナメが出てくる。やっぱり美しい。早速まりりん+旦那さんはナメ滝で滑り台をして釜に入りはしゃぐ(YouTube)。楽しい。沢の岩は白く、森は様々な緑にあふれている。日差しがきつくこれらの風景のコントラストが非常にはっきりしている。輝いているのだけど、そのすべてをうまく写真に写し取るのは難しい。9:45を過ぎてハナゲノ滝に到着。きれいな大きな滝だが、やはり水が少ない。今日なら簡単に登れる気がしたが、ロープを出すことになっても面倒なので、少しだけ滝を登り、中ほどの巻き道から巻いた。その上もナメが続く。みな思い思いに越えていく。10:10前に白毛門沢出合の二俣に到着。ここで10分ほど休憩した。
10:20に出発。東黒沢はこの先森の中を流れる。後ろから3人組のパーティーが追い付いてきた。一人は女性で付けているハーネスが僕と同じものだった。今日はナルミズ沢の広川原に泊り、明日ウツボギ沢を遡行するという。大きな滝はそんなにないが、小滝・ナメが続ききれいなところですよ、と話をした。
870mで沢が合流する手前にちょっとした淵+小滝がある。左岸を巻けるのだが水流の中を行く。小滝の登りが少しだけ難しいので、ツージーさん・カナハナさんには人間アンカー(つまりはアンカーなし)で手がかりロープを出した。
少し赤茶け始めたナメを行く。10m三段滝の手前で、大学生と思しき6〜7名のグループが沢を下ってきた。東黒沢を遡行して抜ける予定が、明日の天気が微妙なので引き返し、下降して終わりにします、とのこと。みなマップケースをぶら下げていたので、自分のいた部活の可能性もないわけではないのかなぁと思いながら下っていく彼らを見ていた。彼ら曰く今日は何パーティーも入っているらしく、サイト場の混雑が予想された。今日はお気に入りのサイトは空いているかなぁ?魚は釣れるかなぁと考えていたのだけど、それを聞いて、それらは無理かもしれないという諦めの気持ちがあらかじめ湧きおこり、そして諦めの免疫が付くことになったので、それは後から良かったなと思った。
10m三段滝は水流右を簡単に直登する。ツージーさん・カナハナさんもロープなしで登った。その先もナメと簡単な滝が続く。ひたすら心を癒される。910mで大きな沢を分ける。森の中を流れるナメの沢。美しい。こんな風景の中にたたずめば、みな心豊かになるのにな、と思う。8m二段滝の左岸側は大きく岩が剥がれて崩れ落ちていた。破片が生々しい。そんなに前ではないのだと思う。その先もナメが続く。この沢のハイライト。
20mナメ状滝は、右壁をへつり気味に登り、滝の中段で右岸に渡り、その上は簡単に登る(YouTube)。この滝も美しい(写真)。しばらくナメが続く。沢は随分と小さくなり、小川のよう。やがてゴーロになる。見上げると大きな入道雲。天気が持ってくれるかどうか、少なくともあと1時間は持ってほしい、そんなことを考えながら歩いていた。11:50に1080mの二俣に到着。10分ほど休憩する。
二俣から先は時々小滝が出てくる平凡な沢。ただ、一か所小滝で皆が左岸を巻いているところを取りついている時に、木の枝を掴んだところ思いのほか振られてそのまま足を滑らせ釜にドポンと落ちる。怪我はなかったが若干すねを打った。反省。気を取り直してもう一度取りつき登りきる。見覚えのある大岩の小滝を登り、1200mを過ぎて水を汲む。そのまま緩やかに詰め上がり、13:05に標高1350mの丸山のコルに出た。
特に休憩することもなく、ウツボギ沢一ノ沢を下降する。遠くに布引尾根、そしてその先に大烏帽子山が見える。トリカブト、ダイモンジソウの群生地を通り過ぎる。1か所手がかりロープを出した。その先の小滝の下りで、右岸をへつり下っていたところツージーさんが足を滑らせて釜に落ちる。思いのほか深くて全身濡れる。寒そう。ウツボキ沢との合流点のすぐ近くでイワナが岩陰に隠れた、とのことで手を入れる。中は狭い。尻尾をつかめたが引っ張りだせない。捕まえられなかったけど、イワナに触れられて幸せな気分。何人か手を入れて、これがイワナかぁと感触を楽しむ。ヘビが苦手というコイケ君はぬるっとした感覚が苦手なのか、早々に手を引っ込めていた。
ナルミズ沢とウツボギ沢の合流点にある広川原(1190m)にはテント村が出来上がっていた。僕もこの広川原には3泊程したことがあるが、こんなに大勢の人がいるのを見たのは初めて。川にはビールが冷やされ、あちらこちらで大宴会の準備が進められつつあるようだった。広川原には14時に到着。雲は多いが、晴れていて、遠くには朝日岳の稜線も見える。10分間休憩して14:10に出発。ナルミズ沢の遡行を開始する。
少し歩くとちょっとしたゴルジュ帯がある。最初の淵は泳いで行く人(YouTube)、左岸をへつっていく人様々。一見へつりは難しそうに見えるがホールド・スタンスはしっかりしているので難しくない。巻く場合はこのへつりの手前から左岸の踏み跡を辿ることになる。その先の深い淵を持つ7m滝は、左壁を登る。3年前は案外難しく感じたのだが、今日は荷物が軽いのか、今シーズン9本目の沢で体が慣れているのか、簡単に感じた。でも後続は立木をアンカーにしてロープを出して確保した。見た目より怖いかも、ロープはあった方がいい、というのがツージーさん・カナハナさんの感想。コイケ君はロープなしでサクサクと登ってくる。
すぐ上の続く深い淵を持つ小滝はまりりんと旦那さんは右岸から、その他は左岸から簡単に越える(YouTube)。深い淵が美しい。その先は美しい森に囲まれた心安らぐ淵・小滝が続く。まだ見た目は秋色には染まっていないけど、渓畔林からは過ぎゆく暑い季節を惜しむ声が聴こえてくる。そんな中、ゆっくりと進む(YouTube)。いくつもの淵と小滝とナメを越えていく。きれいな淵は泳いで遊んだ(YouTube)。寒くない。進んでいくと白い一枚岩の滝に濃い灰色の太いバンドが入り込む。その上をさらさらと流れる水。そんな光景を見て、その光景の中をヒタヒタと歩いて進む。それは幸せな時間だった。
歩いていると左岸にテントが見えてくる。その先にもテントがある。どうやら相当たくさんの人がいるみたい。ちなみに遡行してきてパーティーの中では我々が一番到着が遅かった。途中から川虫を集めながら行くが、餌に最適なヤマトカワゲラ・アミメカワゲラの類は全然見つからず、マダラカゲロウの類を集められたぐらい。他には小さなサンショウウオが網にかかって嬉々としていたが、これを餌に使うことはツージーさんに却下された(2001年にサンショウウオを餌にして25cmのイワナを釣ったことがある)。大石沢出合に近づくとテント村が出来ていた。あらら。時刻は15:45。とりあえず皆に大石沢出合で待ってもらって、その先を見に行ったが、11年前、3年前に泊った場所はどちらも占領されていた。その先も見に行ったがいい場所はない。残念。戻ってくる途中釣り上がってきた2人組のおじさんがいたが、嫌な顔をしていた。やれやれ。
戻って、大石沢の50m程下流の左岸にある草地をサイトとした。眺め良く、河床からは4mほど高いので増水時も安心で、既にサイトの跡はある場所なのだけど、植生を荒らすことになるのは少々気が引ける思いがあった。ツェルト・タープの支柱は持ってこなかったので、30mのメインロープを使って草地の脇の木と木の間にロープを張った。薪を集めるにも苦労するかと思ったが、100m程下ると流木の塊があって、スリングで束ねて運び込む。結構な量の薪が集まりホッとする。人が多過ぎるので釣りは残念だけど今回は諦めた。17時頃になってようやくご飯を作り始める。コイケ君が焚き火大臣としていい焚き火を起こしてくれた。
今回、焚き火缶のMとLを持ってきたのだが、焚き火缶のMで5合の米を炊こうとしたら、めいいっぱいになり、上の方は炊けず芯飯になり1合ほど捨てることになってしまった(下の方は上手く炊けた)。Mは1.88リットルなのだけど、飯盒の4合炊きが1.8〜2.2リットル、5合炊きだと2.5リットルほどあるので、焚き火缶のMでは4合が限界だと思う。反省。メインディッシュは職場の面々の山行にすっかり定番として定着しつつあるポークチリビーンズで、今回はアレンジとしてピーマンが入り、色鮮やかになる。
暗くなる中、ご飯が出来上がり、まずはビールで乾杯!旨い!五臓六腑にしみわたる。そしてご飯を頂く。美味しい。焚き火が揺らめく。煙が空へと還っていく。沢を吹き抜ける風が下流から上流へと向いていたものが、いつの間にか上流から下流へと変わる。ゆっくりと過ぎる時間。
ビールの後は、焼酎・ウィスキー・ブランデーをいただく。その傍らで焚き火でベーコンをあぶり、スモークチキンをあぶり、シシトウ・シイタケをあぶり、そしてマシュマロをあぶりと楽しい時を過ごす。マシュマロをきれいに焼くと大きくなることは知らなかった。皆で線香花火の気分でマシュマロをじっくりと理想的な形に焼きあげ、外はパリッと、中はトロトロな食感を存分に楽しむ。相方のアドバイスで追加で持ってきたカツオの生節は焼酎によくあった。イワナも釣れなかったし相方のアドバイスに従ってよかったとつくづく思った。20時を過ぎて少しだけ雨がポツリと来る。よくここまで天気が持ってくれたもんだと思う。その後もダラダラと焚き火のそばで過ごしていたが、21時前には本格的に雨が降り始め、お開きとすることになった。まりりん+旦那さんはテントへ、ツージーさんとカナハナさんは2〜3人用ツェルトへ、コイケ君はタープの下へ入る。僕はいつも通り、シュラフカバーに包まり、降り落ちる雨粒の重みを感じながら外に寝た。酔いと疲れもあったのか、雨にもかかわらず早々と眠りについた。

※遡行図は東黒沢は「上信越の谷105ルート」、ナルミズ沢は「東京起点沢登りルート120」を使用