奥多摩峰谷川 坊主谷 沢登り

前夜の眠りは浅かった。2日前に急遽行くことを決定した奥多摩の峰谷川の支流、坊主谷。この沢に行くのは初めてなのだけど、遡行図には初級の沢とあり、大したことないだろうと思ってはいた。でも核心部である12m大滝(写真)を巻くか、登るかでいろいろ想像を膨らませていた(それにより難しさが変わる)。せっかくだったら巻かずに登りたい。でも遡行図にある12m滝の「上部が悪い」との文言をみて、どのぐらい怖そうなものなのか、といろいろ考えていると期待と不安が両方膨らみ、眠りを浅くしていた。
4時過ぎに起きて、準備をする。4:40頃相方が起きてきて見送ってくれる。ありがとう。高尾行きの中央線に乗り込むが、睡眠不足もありうつらうつらしていた。立川、青梅と乗換え、7:17に無事奥多摩駅に到着。寒い!!!季節は秋になったんだということをあらためて思った瞬間だった。
今回の面子は、先月源次郎に一緒に行ったぶっちー、そして先月米子沢に行ったニッタくんの計3名。奥多摩駅で無事集合。この先はぶっちーの車に乗って先へと進む。峰谷橋で曲がってさらに進み、三沢橋を左の林道に進み、無事入渓点の橋に到着。すぐ横には1〜2台が停められる駐車場があった。それにしても寒い。秋の沢の現実を思い出す。僕は雨具の上を、他の2人は雨具の上下を着こんで準備を済ませて、8:25に出発。
森の中をサラサラと流れる水。早速堰堤を右から、左からと二つ越す。浅い淵にはたくさんのヤマメがいた。発眼卵を放しているとの看板が立っている。時々大きなヤマメがいて、逃げ込んだ石の下に手を入れると慌てて他のところに逃げていく。平和なひととき。
入渓して15分。最初の連瀑帯が出てくる。1つ目の3mCS滝は、右から巻いて滝の上に下る。ニッタ君にもこちらから来てもらう。ぶっちーは右壁を越えて登ってきた。2つ目の3m滝は手前から右岸の中段についたバンドに上がり、トラバース。慎重に行けば問題ない。3つ目の3×6m滝は滝の真ん中を問題なく登る。4つ目の4m滝は、滝の右からシャワーを浴びながらバンド上に滝の中央に行き、中央を登って、上部は右に抜ける。ある程度の高さと傾斜があるのでニッタ君はカムをアンカーにしてお助け紐で確保する。上部を左から抜けてきたのだが、最後にスタンスがわからなくなり慌てている。確保しておいてよかった。ぶっちーは僕と同じルートを確保なしで難なく登っていた(YouTube)
さて、その後も美しい渓相が続く。小滝・淵を越え、堰堤を越えると右岸の上の方にガードレールが見える。そのすぐ先にある幅広3×5m滝。何も問題ない楽勝の滝(YouTube)だが、動画を撮った後に僕も滝に取りつこうとするとドボン!という大きな音。落石でもあったか?!と気が張り詰めたが、見るとニッタ君が釜に落ちている。さっと血の気が引く。足を滑らせたらしい。全身ずぶ濡れ。寒いのに。2m程の高さを落ちたのだが、幸い釜はある程度の深さがあり、釜には岩もなかったようで、怪我なく心底ホッとした。あらためて彼の登りをじっくり見て気になるのは不用意にスタンスを置くこと。一見足をおけそうにないところでもわずかなくぼみがあったり、何もないところでは本当に立てるかどうか確かめながら登るのだけど、彼の足取りをじっくり見ているとすぐ横にくぼみがあるのにその横の何もないところに足を置くなど何も考えていないように見える。他には少し怖そうなスタンスの後の次の一歩が何も考えていないように見える。これら点は注意した。注意して何とかなるものでもないのかもしれないけど、注意してもらわないと上達しないしそのうち怪我もするはず。とはいえ、至極簡単なところでも事故が起こる可能性を感じた滝だった。気を取り直して進む。
簡単・快適に登れる3〜5m程の滝が続く。遡行図のどの滝がどれなのかわけがわからなくなってくる。岩は割と尖り気味で、しっかり持てるが痛い時もある。遡行図の7m滝(?)は、左壁を巻き気味に登る。簡単だが高さがあるので、立木をアンカーにしてニッタ君を確保する。ぶっちーは水流左すぐ横を直登。案外簡単らしい。ぶっちーに対してロープを出すことは激減中だが、よく何もなしでひょいひょい登れるようになったものだと感心する。その後も3〜5m程の滝が続き、特に問題なく登っていく。
さて、大滝に続く滝群に到着。最初に5mの岩が詰まった滝があり、右岸を簡単に巻く。その先の7m、8m滝は高さがあり見た目もすっきりしていてかっこいい。開けた場所で空が良く見える。7mは左を巻き気味に登り、8mは滝の横の左の乾いたところを登る。簡単だが上部は傾斜が出てくるのでニッタ君にはお助け紐で手がかりを出した。もう少し左から巻けば全く問題ない場所。
さて、12m大滝(写真)。9:55到着。休憩してその間に観察する。12mはなさそう。せいぜい8〜9m程度か。傾斜はまあまあ。手前には深い釜。左壁は登れそうになく、右壁は釜から5mほど上がったところに古い短い残置ロープがかかった木が1本。その上に細い木が1本。左上するバンドがあり、落ち口に近づくと少し細くなる。これなら十分行けるな、と思った。濡れないように行くには左岸手前から巻き気味に登り、一旦降りてその後木とバンドを目指すのだろうけど、それも面倒そうなので、釜から取りつくことにした。ただ、釜から這い上がるところ(残置ロープのかかった木の下)が案外てこずりそうな気がしたので、まずは空身で取りつく。案の定、少し登りにくい。這い上がって、残置ロープのかかった木までは簡単に登り、お助け紐(長さ10m)をダブルで木にかけてから戻ってきた。ロープを出してキンクをとりアンザイレン。僕リード、ぶっちーがビレイヤーで登攀開始。
腰の上あたりまで水に浸かって先ほど残したお助け紐のところに行き、さらにアブミをかける。アブミに足をかけ、水面に体を引き上げるがお助け紐がギュインと伸びて案外乗りにくい。這い上がってからは、木までは簡単に登り、120cmスリングでまずは1つ目のランナー(中間支点)を取る。木を持ってバンドに上がり、その上にある木に120cmスリングで2つ目のランナーをとる。バンドに沿って落ち口に向かって左上する。高さはあるがホールドスタンスはしっかりしている。落ち口の手前の足元に岩溝があったので、念のためリンクカムの#0.5をひとつ噛ませて三つ目のランナーをとった。これで安心感倍増。特に緊張することもなく、無事登りきる。ほ。でも、高さは確かにあるけれど、ホールドスタンスはしっかりしているので難しくはない滝だった。
滝上に残置ハーケン等はなくて、いい木もなかったので、ハーケンを2本打ち、カムも1つ効かせてアンカーを作りセルフビレイを取ってビレイ解除。まずはニッタ君に登ってもらう。水中からの這い上がりにやや苦労している模様。最後のところで詰まる。3つ目のランナーに気が付かずに外していなかったので固定されてしまい、1分ほどしてランナーに気が付いたが、戻るに戻れずにいたよう。「ロープ付いているから落ちても(ここなら振られて落ちるようなことはないから)大丈夫だよ」とフォローしているうちに、わずかに戻ってランナーを外し、無事登りきる。ぶっちーには残してきたお助け紐、アブミ、スリング等を回収してもらった。登り切ったぶっちーに感想を聞くと、落ち口は高さがあってそこそこ緊張しました、とのこと。核心部が案外すんなり終わってホッとした。10:40。
すぐ上の5m滝は右手前の乾いたリッジを簡単に登り、その後も小滝が続く沢をリラックスした気分でゆったりと登る(YouTube)。沢全体が苔むしてきて、そこを先ほどよりも傾斜が緩くなった河床に水がサラサラと流れる。癒される。途中、膝ほどの深さの淵で、大きめのヤマメがの底の落ち葉の下に隠れたのが見えた。心ときめく。よしよし、と狙いを定め、エイヤ!と落ち葉ごと掴むと左手に激痛が走る。落ち葉の中に栗の毬(イガ)が混ざっていた。左手に棘が10か所以上刺さっていた。やれやれ、コントみたい。気を取り直してサクサクと快適に登る(YouTube)。途中出てきた石組堰堤は巻かずに果敢に登る。小ゴルジュが終わるとその上は左岸にわさび田跡がある。右岸から支沢が入るきれいな5m滝の下で休憩。11:30。バーナーを出してお湯を沸かし、コーヒー・お茶を飲んだ。僕はパンも食べた。陽が射して気持ちがいい。
11:50に出発。小滝を登った後は、わさび田が続く。よくこんな場所にこんなにもたくさんのわさび田を作ったものだ。山肌に色づきがみられ始めた。それが秋の透き通った青い空によく映えていた。河床にはイタヤカエデの落葉が増えてきた。水がゴボゴボと漏れている取水槽を過ぎる。シダノ沢を分けて、随分と細くなった沢を行く。途中、小指の先の1/4しかない黒いカタツムリを発見。動画で撮ったが、全然動かなかった(YouTube)。そのうちギャアという悲鳴が聞こえてくる。見ると沢の至るところにヤスデがうじゃうじゃいた(YouTube)。ギャア。色合いはキシャヤスデに似るが模様が少し違う。ヤスデを踏まないように、小滝では手をかけないように登る。足をぐっと広げた大きなカツラの木があった。立派だった。
最後は傾斜がきつくなり、落石に気を付けながら登ると無事登山道に出る。12:50。沢は無事終了!ここは鷹ノ巣小屋の水場になっているところでコンクリートの水桶が付いている。装備を解除して、13:15に下山開始。気持ちのいいトレッキング道。途中ニホンザルの群れに遇う。すれ違った登山者は、犬を連れている人、マウンテンバイクを押してきている人、虫を採集している人、とバリエーションに富んでいて、普通の登山をしている人は1人しかいなかった。浅間神社を越え、奥集落に向かって大きく曲がる看板のあるところ(取水槽への巡視路との合流点)から先は、尾根上の踏み跡を下る。最後の方で途中に横切る明瞭な踏み跡が出てくるが無視して尾根上を真直ぐ下るのが正解(赤点線の通り)。最後は古いワーヤーロープの残された尾根を下って、資材置き場に出てくる。14:35。
車までダラダラと林道を歩き、14:45に車に到着。その後はもえぎの湯に行き、ポカポカと温泉で暖まる。湯上がりに乾杯してから、駅まで送ってもらい、僕は16:52のホリデー快速に乗って帰京した。
坊主谷は、前半の滝群にハイライトがあって、そこを越えてしまうと後半は沢はきれいだがわさび田も多くやや冗長。前半の滝は登れるものが多くて楽しい。大滝も無事登れて嬉しい。こちらは想像していたよりもずっと簡単だったが、でもリードはした方が無難だとは思った。紅葉はまだこれからだったが、もう十分寒かった。今年はあと何本沢にいけるのやら。
※遡行図は「東京起点沢登りルート120」を使用。

※写真付き記録はこちら(お散歩観察会のページ)