春の嵐の日白山 山スキー

先週に行くことを計画しつつも、天気・同行者の体調不良で延期していた上越の日白山山スキーに、この日仕切り直して行くことになった。
日白山(にっぱくさん)は、上越の隠れた山スキーの名山として知られている山だ。夏道がなく、主に積雪期(主として残雪期)にだけ訪れられる山なので一般の登山者にはマイナーな山となっているのだが、展望の山であることも知られていて、この山から眺める谷川連峰は素晴らしいとのこと。僕はまだ行ったことがないので、どんな山かと楽しみにしていた。
ただ天気が今一つ良くないので、出発までは決行の可否・場所の変更について悩み続け、2度方針転換があった。予報では、金曜日に低気圧が一つ通り過ぎ、その後は高気圧が張り出しつつ南風によって一気に暖かくなった後、日曜日の昼ごろに別の低気圧の寒冷前線が通過し、その後雨が降ることになっていた。急に暖かくなることから、雪質の急激な悪化と雪崩の危険にヤキモキし、その後の寒冷前線通過による悪天候が予想されたので、これは流石に厳しいかな、と金曜日の夕方時点では一度方針転換し、太平洋側の上州武尊山での軽い山スキーにすることにして、その旨参加者には連絡していた。それで土曜日の昼に上州武尊山の登山計画書と地図を作っていたのだが、予報が少し好転し、何とか昼ごろまでは天気が持ちこたえられそうであること(と言っても山の天気は先に崩れやすいのですが)、低気圧はそれほど強いものではないこと、雨が降る予報だったが案外雪に変わるのが早そうであること、等等を考えると、何とかなるかなーと思い返し、悶々と数時間悩んだ後、全行程完遂の確率は5割ぐらいかもなぁと思いつつも日白山に行くことに再度方針を転換し、その旨皆さんに連絡した。
朝は4時半に起きて、テルモスに熱湯を入れ、さっとオニオンスープを作ってそれをプリムス ランチジャグに入れ、出発の準備を整えた後、家を出た。東京駅6:08の上越新幹線の始発に乗って出発。
今回は、まりりんコイケ君、僕の計3名。他にカナハナさんが来る予定だったのだが、6時頃体調が今一つとのことで不参加の連絡を受ける。残念、また今度是非。結果的に、いずれも学生時代から雪山もやっていたという非常に山に慣れた3人だけとなったことから、これなら少々コンディションが良くなくても何とかなるなぁという思いも沸々と湧いてきた。安全第一で行くことは変わりないのだけど、このメンバーなら大丈夫、といつもにないほどの安心感があった。
越後湯沢駅には7:25に到着した。そのままバス停に行き、7:35発のバスに乗る。二居田代スキー場前までの料金は、バス代510円+荷物代100円の合計610円なり。上越とはいえ気温が高く、春の陽気そのもの。日差しも暑いぐらい。駅周辺から見える山は雪には覆われているものの、下側の斜面では一部山肌が見えてきているところもあり、急激な春の訪れをひしひしと感じていた。この好天が、後わずか3〜4時間で荒天に変わるなんて考えたくないあなぁと思いながら窓の外を眺めていた。
8時を過ぎて二居田代スキー場前のバス亭に到着。ここで降りたのは僕達だけだった。そのまま二居の集落に入り、観光案内所のある交差点を左に曲がり、福田屋旅館の横から二居スキー場跡に入る。ここで出発の準備を整える。ここでコイケ君から、ビーコンを忘れてきたことが申告される。雪崩の危険が高いところであれば即刻中止、と言ったところだが、うーんと悩んだ後、僕のビーコンを貸すことにした。余分な荷物をデポして、8:30にいよいよ出発。まりりんテレマークスキー、コイケ君と僕は登山靴山スキーという出で立ちだ。
天気が良く暑い。雪も緩んでグサグサだった。まずスキー場の右側のコースを行き、回り込むようにしてスキー場跡の上に出る。その後は傾斜が急になるので、何度もキックターンを繰り返しながらジグザグと登っていく。ここをスキーを履いたまま登るのは、山スキーにある程度慣れていないとちょっときついかもしれない。振り返ると上越・上信越の山々が良く見える。霞んでいるのは黄砂の影響だろうか。鉄塔目指して登っていくのだが、途中1か所、そして1100m付近の尾根に上がる直前の1か所で、スキーを外してつぼ足で急斜を上がった。少しの距離だがズボズボと埋まってプチ消耗。ついでに早くもパラパラと雨が降り始めて気持ちが萎える。その後は傾斜が緩くなり、1150mの鉄塔の下で最初の休憩。9:30。手前で山を下ってきた単独行の女性に会う。赤いヤッケに水色のカリマーの70-90リットルのザックという出で立ち。かっこいいなぁ。一緒によく山に行っているエナさんと同じようなカラーリングだったので、未来のエナさんはこんな感じになるのかもしれないなぁと思った。話をすると、今日は2パーティー入っているとのことだった。

10分弱休憩して再出発。この時点ではまだ展望はあった(写真)のだが、その後まもなく南風に乗って谷川連峰方面はもくもくと雲が湧きあがり、やがて山全体が雲に覆われていった。1200mを越えるあたりから雨が本格化し、カッパを着た。ガスにも巻かれて視界はあっという間になくなって、50〜100mほどの視界の中を進む。気温もぐっと下がった。もう少しは天気は持ってくれることを期待していたのだけど。この先は稜線が割と細いのだが、右側の雪庇はしっかりとクラックが入っているので近づけず、かといって左側の樹林も割と密で一部歩きにくいところもあった、スキーで戻りたくない場所だなぁと思いながら進む。それにしてもコイケ君の登りは上手い。感心。
1320mを過ぎてようやく斜面が広くなり歩きやすくなる。1350mで再度休憩。10:20。この状況下だったら東谷山まで行って引き返すのかなぁと思っていたのだが、雨はすぐに雪に変わったこと、先ほどの斜面がいまいちだったこともあり、また縦走路にはそれほど危険な場所があるわけではないので、コンディションが許せば縦走してしまった方が楽だなぁと思い始める。
風が強く、顔に当たる粉雪が冷たい。目出帽を被る。サングラスに付着した水分が凍りついていた。グサグサだった斜面が少しずつ凍り始める。吹雪で視界のない中、歩く。モノトーンの世界。雪山に慣れていない人が参加していたとしたら、こんな悪天候で視界のない中を行動するんだ、と不安に駆られるかもしれない。途中、クマの足跡があった(写真)。春の陽気に誘われて冬眠から目覚めたのだろうか。しかし、また季節は冬に戻っていた。
悪天候の中、11:10に東谷山に着く。まあまあのペース。その先のわずかな下りがあるのだが、クラストし始めていたので慎重に下る(YouTube)。その先も稜線は広く、緩斜なのでその意味での怖さはないのだが、左側が割と樹林がなく急なところもあり、グサグサだった斜面もガリガリになってきたので、一歩一歩をしっかりと進める(YouTube)カリカリの斜面の状態なら、クトーはあった方が良いと思う。視界が効かないので時々コンパスを切った。わずかな下りは慎重に下る。そして真っ白な中、12:05に無事日白山(標高1631m)に到着!何も見えなかったけど、とにかくピークに来れたことは嬉しかった。
さて、ピークは吹きさらしだったので、少しだけ下ってから休憩することにした。山頂直下から高さにして15m程の下りが、両側が切れていて、斜面もクラストしていたのでスキーのエッジを効かせながら慎重に下る(一番上の写真↑)。慣れていない人だとこれだけコンディションが悪いと少し怖いかも。そして1590mの地点で休憩。12:15。

モノポールシェルターを張って(写真)中に入る。暖かい。ここでまず朝作ったオニオンスープを飲む。美味しい。買ってよかったプリムス ランチジャグ。その後お湯を沸かし、カップラーメンをいただく。まりりんが左手にお湯をこぼしてしまってやけど。あらら。雪で冷やす。それほどではなく大丈夫みたい。ほ。その後は、成城石井で買ったチーズケーキを食べた。美味しかった。
この先の滑降に向けて靴ひもを締め直す。登山靴スキーの場合はきちんと靴ひもを締めておくかどうかで随分と違う。そうそう、これまでは靴ひもは足首をきつく締める一方で、凍傷防止のために足の甲の部分の紐はいつもかなり緩くしていたのだけど、ここもある程度しっかりと締めておくと登山靴スキーの際には断然滑りやすいことに今シーズンになってようやく気が付いた。シェルターには雪が降り積もる。小一時間の休憩後、シェルターをたたんでシールを剥がして、13:15に出発。
雪質が先ほどまでと一変している。高い気温の影響でグサグサになっていた雪が、カリカリと凍ってザラメ雪となり、その上になんとサラサラの粉雪が4〜5cmほど、深いところでは10cm近くも積もっている。寒冷前線通過に伴う春の嵐のおかげで、思いがけないパウダースノーを体験することが出来ることになった。心がときめく。さて、出発。
稜線上は左手の雪庇に気を付けながらサクッと進む。1500mのコルからいよいよ斜面を滑り始める。寒冷前線通過に伴う北西風により、西側斜面にはたっぷりのサラサラの粉雪が積もっている。その斜面に滑りこむ!と、1450mでまりりんが転倒した際に左膝をひねって古傷を痛めている。左ターンがきつくなったようで、この後は慎重に滑ってもらう。1500mのコルからみて少し南側の尾根上を行く気でいたが、そのまま西に進んだ斜面があまりにも快適そうでそちらに向かう。新雪もそれほどの量はないし、その下もカリカリとしていて雪崩の心配はない(であろう)まっさらな真っ白な急斜面(写真)を、パウダースノーを蹴散らしながら豪快に滑る!!!雪質から言えば先月の会津駒ヶ岳には勝てないが、このまっさらな大斜面を大きなカーブを描きながら滑り下りていくのは最高だった。

しかしながら、コイケ君がほぼターンの度にこけていて案外消耗している。追い付いてくるまでの待ち時間は、地図とGPSをにらめっこし、その先どういうコースを行くべきか検討していた。1350m付近からトラバース気味に進んで、1300mのところで尾根筋に合流し、その先は尾根右手の急斜面を滑降する。ここも最高の斜面だった。あっという間に1100m付近となりその先はどこで沢を渡るかを考えながら下っていくが、気が付けば砂防堰堤がたくさん出てきて結構渡るのは大変そう。川の左岸側にトレースがあったので、この付近では渡らずにもう少し下まで左岸を滑っていくことにした。
先ほどに比べると樹林が密になり始める中、随分と緩くなった斜面をゆるゆると下る。先ほどまではバタバタとこけていたコイケ君は一変してスルスルとスムーズに滑っている。薄っらと残ったトレースを辿りながら進み、送電線の交わるあたりで川を渡ろうか、と話をしていたのだけれども、標高950m付近に何も問題なく沢を渡れる場所があってトレースもそちらに続いていたのでそのまま進む。そして14:10に林道に合流。スキーの滑り始めから、この合流地点までの動画を適当につなげた動画はこちら(YouTube)。無事林道に辿りつけてホッとした。今回辿ったコースは地図の通り↓。

その先はゆるゆると滑り降りていく。やがて除雪してある場所まで来たが、その先も雪が積もっていたのでさらにスキーを履いたまま下る。860mの付近で雪が途切れ、スキーを外した。14:25。あ〜楽しかった!その後はスキーを背負って車道を歩き、14:35にデポした二居スキー場跡に戻ってきた。荷物を回収してバス停に向かう。
バス停には14:40過ぎに到着。14:59に越後湯沢駅に向かうバスがあるのでちょうどいい!スキーを収容し、余計な装備を外す。15時を過ぎてやってきたバスは割とたくさん乗っていたが、幸い座ることが出来た。15時半前に越後湯沢駅に到着した。たくさんのスキー客で駅構内は非常に賑わっていた。
越後湯沢駅ではまず温泉に入る。ポカポカと温まった。その後昨年の9月にも打ち上げをやったお食事処で、まずは八海山ビールで乾杯!五臓六腑にしみわたる!これだから山はやめられない!みな満足感と温泉後喉の渇きもあって、一杯目はゴクゴクとあっという間に飲み干し、各々種類を変えたビール・日本酒を再度注文した。美味い!
打ち上げは早々に切り上げて、17:01の新幹線に乗った。指定席は満席、自由席もいっぱいなので指定席車両のデッキに行き、ザックを椅子にして快適に過ごす。ここでさらにワインを頂きながら、山談義に花を咲かせた。
コイケ君の話の中で、今日のような斜面だと、北大山岳部だとシールをつけたまま滑ることになります、という話があった。登山靴スキーだと、シールをつけて下らせないと、こける人が続出して行動が遅くなるのだという。あんなにも素敵な斜面をシールをつけて下ってしまうなんてもったいないことこの上ないのだけれども、山スキーは滑降を楽しむための道具というよりは、深雪地帯で登山をする際のラッセル・移動の道具だという位置づけがより強いのであれば、わからなくもないスタンスだ。
あとはそれを聞いて妙に納得するところがあった。シールをつけての登りや、稜線上のクラストした斜面でのシールをつけた状態での下りでは、コイケ君は抜群の安定感があって、流石だなぁと思っていた。なのに、いざスキー滑降を始めた途端、登山靴スキーとは言え、面白いようにこけているのが不思議でしょうがなかった。が、シールをつけたまま下ります、ということを聞いて、シールをつけた状態の滑らない板での滑りに慣れ過ぎているので、シールを外した滑る板に乗って、そこそこの斜面に行った際には、自分のイメージよりも板が先行してしまって、結果的に後傾になり、こけるのだと思った(彼の名誉のために書いておくと、登山靴ではなくて、スキー靴を履いた普通のゲレンデでのスキーは彼はかなり上手いです)。別の言い方をすれば、例えばパウダーの斜面だと、本当にふかふかだとなかなか前に進まないので、板の先端を浮かして雪に潜り込まなくし、さらにスピードを出すために、後傾にして滑るのだけど、その体勢がコイケ君にとっての登山靴スキーでの普段の状態で、それに慣れすぎていて、このため、滑る場所に来た際に、曲がり終わりに後傾して後ろにひっくり返るのと同じだと思った。そして、シールをつけた状態での滑りや、緩傾斜でビンディングをヒールフリーにしている状態での滑りが非常に安定していて上手い(つまり前につんのめらないように後傾になっている)のも説明出来るのかなと思うと妙に納得。北大山岳部は山に行くための道具としてスキーをしっかり位置づけていることがよくわかった。併せて、何故山岳部の他に、スキー山岳部が北大にはあるのかがわかったような気がしていた。
東京には一時間半ほどで到着。家にたどりつき、コンビニで買った晩御飯を食べる。相方の帰りは遅いらしい。休日もいつでも研究室にこもっているのは本当に頭が下がる思い。洗濯を済ませるともう眠くなってしまって、21時半には眠りについた。
上越の隠れたスキー名山といわれる日白山。晴れていれば、技術的に難しいところはない。ただ、クラストしているような状況であれば、クトー(スキーアイゼン)は持って行くべきだと思う(今回は一度も使わず)。また、滑り出しが結構急なので、ある程度のスキー技術は必要だと思う。寒冷前線通過による春の嵐の中にあっては、大展望はなかったけれども、無事ピークに立ち、その後は想定外の粉雪パウダーを堪能することが出来て大満足。そして、何より上越の登山道のない静かな山を山慣れた面子とともに旅することができたことが嬉しかった。若干怪我があったのは残念。今後さらに気をつけよう。
さて、楽しい週末が終わった。来週も仕事を頑張ろう。

※写真付き記録はこちら(お散歩観察会のページ)