休日 Mont Tremblant 二日目

夜は雨が激しく降っていた。朝4時半頃に、ザヴァーッという大きな音がして目が覚めた。タープに溜まっていた水が流れたのだろう。タープを確かめに雨の中外に出る。タープの上にはまだたっぷりの水が溜まっていて、それを逃した後、重みですっかり弛んでいたタープの張り綱を張り直し、またタープの端を別のロープで引っ張って水がうまく逃げるようにセットし直した。
まだ真っ暗。もう少し寝ようかとも思ったのだけど、雨音に目が冴えてしまった。車に入れておいた食料を取りに行き、その後雨がザーザー降る中、焚き火を開始した。タープを叩く雨音が、昔の様々な山行を思い出させて、感慨に浸っていた。
6時半頃にMateuszが起きてきて、その後、朝食。昨日の残りや、パン、オートミール、ヨーグルト、トマトなどをいただいた。
目の前のモンロー湖の湖面の変化に気がついて目を凝らす。ビーバーが二頭泳いでいた。嬉しい。

割とのんびりと過ごした後、片付けを開始したのだけど、その後、雨脚が強くなる。タープの下に避難して、雨が弱まるのを待っていた。
雨脚が弱まった隙にタープを素早く撤収して車に向かう。その後は、車に乗って、ディアブル川にかかる滝を見に行った。昨年8月に一度訪れたことのある場所だ。駐車場から700mほど歩いて滝へ。雨の影響もあって水量は豊かだ。

そして、車に乗って、モントリオールへ。途中雨が激しくて運転しづらかった。帰りの車の中では、Mateuszがかつてポーランドからイタリアまでヒッチハイクで旅した際に、たくさんの素敵な親切な方々にあって、如何に自分の意識が変わっていったのかのロングストーリーを聞いていた。モントリオールに着く頃には雨が上がって、日が差し始めた。Mateuszを地下鉄の駅に送って行って、その後、車を返却し、帰宅した。

今回のKayaking & SUP boardingの様子をまとめた動画はこちら(YouTube、5分半)

今回、3回目となるディアブル川の下流部は、雨とはいえ、変わらずただ、ただ美しかった。この美しい森の中をくねくねと蛇行しながらゆったりと、しかし飽きない速度で流れる川を下る楽しさよ!モントランブラン州立公園に行く機会があるなら、真っ先にオススメしたいアクティビティーだ。レンタルカヌー/カヤックもあるので、カヌー/カヤックを持っていなくても大丈夫(ほとんどの方はレンタル)。一方で、SUPについては、川区間は貸し出しはされていないので、ここをSUPで下りたければ、やっぱり購入する必要がある。それをどうするかは、SUPという水上散歩の道具にどこまで惹かれているか、ということだけなのだけど。
なにはともあれ、楽しい週末のカヤック/SUP旅は無事幕を閉じた。

休日 Mont Tremblant River Kayaking

朝5時過ぎに起きて準備を済ませる。天気予報は良くなくて、土曜日の今日は曇り夕方以降雨、日曜日は雨の予報。6時15分を過ぎて車を取りにいく。カヤックやSUP、それにキャンプ道具を積み込んで、地下鉄駅へと向かう。
今回は、職場の同僚のMateuszと二人で、モントリオールの北西方向に150km行ったところにあるモントランブラン州立公園(Parc national du Mont-Tremblant)のディアブル川(Diable River)の下流部(公園入口付近の12kmほどの区間)を下る計画。この区間を下るのは僕は3回目だ。地図はこちら(PDF)

8月の下旬に二度続けて行ったのはディアブル川の上流部にあたり、こちらにいくのは少々手間がかかる。その点、この下流部は美しい上にアプローチも楽で、難しいところもなく、安心して楽しめる場所だ。
7時に待ち合わせ。その後高速道路を運転してモントランブランへ。途中トイレ休憩で一度サービスエリアに立ち寄った。早くも雨がぱらつき始める。
小雨が降る中、公園の入口には8:45に到着。手続きを済ませ、その後10km先にあるモンロー湖畔のサービスセンターに薪を買いに向かう。が、何ということだ、店が開くのは9時半からだった(閉店は16時)。夏の間は8時には開いていたのに。それで30分ほど待ちぼうけ。この間、サンドウィッチを作って朝ごはんとした。
薪を二袋買ってから、出発地点のLac Chat(Cat lake、猫湖)に向かう。雨がぱらつく。
カヤックとSUPそれぞれに空気を入れる。Mateuszは川下りは初めてだという。さらにSUPを使うのも初めてなのだけど、最初の瀬はSUPの方が安全だと判断して(すぐに降りられるため)、僕がカヤック、MateuszがSUPで出発!

雨は降っているが、雨具をしっかり着込んでいるので肌寒くはない。

湖を横断した後、最初の瀬に早速突入。雨のためか、水量はそれなりにある。Mateuszは立ったまま瀬に突入してそのまま無事通過していた。
瀬が続く。この最初の瀬は300m程ある。2箇所ほどカヤックの底を擦ったのだけど、そのまま無事通過。Mateuszは最後の部分で左に行き過ぎてスタックしていたのだけど、SUPを一旦降りてすぐに乗り込み直し、無事下ってきた。
その先は適度な瀬が時々現れて快適だ。SUPの面白さを存分に感じるために、ほとんど漕がずにただ川の流れに任せて下る。


川はやっぱり流れがあるのがいい。雨の音と、せせらぎだけがこだまする静かな場所。時々、アオカケス(Blue jay)が、ジェイジェイと鳴いて静けさに変化をつけていた。雨であることは残念なのだけど、雨であるゆえに、流れてくるカヌー、カヤックの数は少なくて、川の流れにのんびりと任せて進む僕たちは数組のカヌー、カヤックに追い抜かされていったけど、通過前後の1−2分を除けば、静かな時間がそこにはあった。Mateuszは、SUPのどこが良いのかイマイチわからなかったけど、今、これは面白いと確信しているよ、とご満悦な様子。
この区間は、水草が格段に美しい場所だ。SUPの高みから川を見ているMateuszもすっかり見とれている。と、大きな魚だ!3匹!との声。川面に近い僕のカヤックからは反射して見えない。そっちに向かっているよ、と言われて、よくよく目を凝らすと確かに大きな魚が三匹こちらに向かってきていた。この区間で大きな魚を見るのは初めてだ。
のんびりと下る。今度は僕が大きなトラウト(50cmほどあったと思う)を見つける。ブルックトラウトだと思う。美しい。
カモやカワアイサを見つつ、下る。




途中でSUPとカヤックを交換した。SUPからはやはり水の中が良く見える。ツーリング用途や機動力、総合力ではカヤックには到底勝てないけど、水上散歩・親水性という観点では、SUPはカヤックに圧勝だと思う。


途中、上陸して休憩もしつつ、進む。雨脚が強くなり始める。川の流れに沿ってのんびり進んでいた僕たちも、雨に急かされるようにパドリングを始める。
途中、カヌーの大きなパーティー(5−6隻ほど)がいて、前席に東洋人らしき人が乗っているなぁと思っていたら、後部席のガイドらしき人から、あなたは日本人ですか?と質問され、そうです、と答えると、彼女も日本人なんですよ、とのこと。日本から遠く離れたここQuébec州の森の中を流れる川の上で、日本語で挨拶するのは、何だかとても新鮮だった。
SUPとカヤックを再度交換して、再びカヤックにどかっと座ってのんびりと下る。


公園入口にあるヴィアフェラータに使われている岩肌が近づいてきて、それに霧がかかって美しい。




この時期、終点からのシャトルバスは14時、15時、16時の三本があるのだけど、15時のバスを目指して向かう。そして14時20分に無事終点に到着。所要4時間、のんびりとした川下りだった。

その後は、カヤックだけ片付けて、やってきたバスに僕だけ乗り込んで、Mateuszには折りたたんだカヤックとSUPを見ておいてもらった。バスは、Lac Chatまで身一つで向かうのであればただで送迎してくれる。今回も、Could you send me to Lac Chat?というと、もちろん、とのこと。10分かからずにスタート地点のLac Chatに着いて降ろしてもらい、車を回収して、入口に戻ってきた。
荷物を回収してそろそろ出発という頃に、カヌーが到着して、女性が一人駆け寄ってきた。きっとLac Chatまで送ってほしいのだろうと思っていたら、その通りで、最初荷物がいっぱいの後部座席を見て、諦めます…と言われたのだけど、ピチピチではないとはいえ、素敵なレディーから送って行ってほしいと言われたこともあって、なんとかしますから少々お待ち下さい、と話して、Mateuszと二人で荷物をトランクに押し込み、後部座席に一人分の席を確保して、その後Lac Chatに向かった。6月に来たときは若いカップルのヒッチハイカーを乗せたけど、今回も何か役に立てた気がして、ちょっと嬉しかった。
その後は、モンロー湖畔にあるキャンプ場に向かう。今回は湖の西側にあるLa Gamelleというキャンプ場に行く。ここは駐車場から歩いてキャンプサイトに向かう必要があるのだけど、その分静かなところで、同じ職場の方からオススメされた場所だ。
キャンプサイトに向かい、タープを張り、Mateuszと僕のテントをそれぞれ張った。ピクニックテーブルを動かしてタープの下に置き、落ちつける場所を確保した。

その後は、延々と食べ続ける。Mateuszは自宅の庭で採れた有機栽培無農薬のトマトや、ポーランドのソーセージ、ベーコン、漬物、さらに自家製のマヨネーズなどを出してくれた。どれも美味しい。僕はお気に入りのサーモンナゲットの他、凍らせて持ってきたカレーを温め、これがジャパニーズカレーだ、と言って召し上がっていただく。焚き火ではソーセージやステーキ、野菜、マッシュルームを焼いていただく。

夕方以降雨脚が強まった。周りのキャンプサイトの方々は誰もタープなんて持っていなくて、辛そう。やっぱりタープは役に立つなぁと思いながら、雨音を聞きながら、美味しいものをいただきながら、いろいろな話に花が咲いていた。
夜10時頃就寝。

休日 TadoussacからMontrealへ

朝6時に起きる。夜半は何度か激しく雨が降ったけど、今は止んでいる。ガスストーブでお湯を沸かしてオートミールをいただく。手早く撤収を済ませて、7:15にキャンプ場を出発した。
モントリオールへ。Tadoussacのフェリーはとてもタイミングが良くて、乗り込むと5分も経たないうちに出航した。雲間から射す太陽の光とそれに輝くセントローレンス湾の水面のきらめきに心が奪われた。

フェリーを降りる時は、Prius Cがエラーを起こして動かなくなり、かなり焦ったのだけど、再度キーをひねって車のスイッチを入れ直すと正常に動いた。ほ。このおかげで僕の後ろに停まっていた数台の車は少し出発が遅くなった。いやはや。
モントリオールまでの道のり500kmはひたすら運転を続ける。パトカーが結構いて、スピード違反で捕まっている車は結構いた。中間地点のケベックティーを過ぎ、高速道路40号を使ってモントリオールへ向かう。連休だけあって、いつもよりもキャンピングカーが多く、高速道路にはしばしば何台ものキャンピングカーが列になって連なっていた。途中一度給油して、渋滞には巻き込まれずにモントリオール市内には13時半頃戻ってきたのだけど、家のすぐ近くの道路が工事で通行止めで、回り道をしている間に時間がかかって、家にたどり着いたのは14時を過ぎていた。
その後は、キャンプ道具を干したり、洗濯をしたりして過ごす。17時を過ぎてから買い物に行くと近くのスーパーは勤労感謝の日のため閉まっていて、仕方がなくマクドナルドでビッグマックバーガーのセットを注文した。


Tadoussacでのホエールウォッチングを含めたカヤックは結果的には想像以上に素晴らしかった。十数頭のベルーガに囲まれてカヤックができたのは最高だったし、セントローレンス湾に面した観察ポイントで、広大な景色を眺めながらぼんやりと過ごした時間もとてもいいものだった。

カヤックについて言えば、情報通りセントローレンス湾の水温は大変低いので、だだっ広いセントローレンス湾内を漕ぐなら、ドライスーツセミドライスーツはあった方が安全だろう。もし波風ともに穏やかであればそうでもないのだろうけど。また、サグネ川については、場所に寄っては潮の満ち引きによる相当強い流れがある。L'Anse-de-Rocheの港から4kmの地点まではそれほど問題はないけれども、その先の最狭窄部を通過するなら、潮の満ち引きをしっかりと考慮に入れた上でないと、危ないと思う。この点だけは気をつけた方がいい。ここは断崖で上陸できる場所はない。流れの中を漕ぎながら、つくづく、きちんと潮の満ち引きを調べておいて良かったと思ったものだった。またサグネ川は上流部に行けば水温は上がるとのことだけど、僕がカヤックしたあたりはそれなりに冷たかったこともあって、ベルーガにあえる可能性があるあたりはまだ低水温であることは意識しておいた方がいいと思う。
車の運転は6時間強。フェリーも含めてTadoussacまでは7時間弱といったところ。土日だけではちょっと短過ぎて、最低でも3日、理想的には4日ぐらいの休みを利用して訪れたいと思う場所だった。

休日 Tadoussac 2日目 Saguenay river kayaking

朝5時半過ぎに目がさめた。よく寝た。起きてガスバーナーでお湯を沸かしてオートミールをいただく。朝からリスは元気に林の中を動き回っている。
テントを残したまま7時半頃キャンプサイトを出発。今日はサグネ川the Saguenay river)でカヤックをする予定。タドゥサックの満潮時刻が9:34なので、その少し先までサグネ川を遡って、その後降ってくる計画を立てていた。タドゥサック全体の地図はこちら。

L'Anse-de-Rocheというサグネ川の河口から18kmの左岸にある小さな港に向かう。7:45に到着。川面は静まり返って鏡のよう。他には誰もいない。カヤックを組み立てる。昨日管理人のおじさんは朝8時から営業しているよ、と話されていたのだけど、8時を過ぎても誰もいなかった。
8:25に出発。ここから約7.5km上流のBay Millを目指して漕ぎ始める。

水は塩分が混じって少ししょっぱい。水温は低くて、沖合で沈したら低体温症が恐ろしい。ドライスーツは日本に置いてきているので持っていなく、代わりに下は分厚い化繊のアンダーウェアを履き、上は防水のアノラックを着て、万一の際に少しでも時間稼ぎできるようにしてみた。GoProをカヤックの先端に取り付けるつもりが、リモコンのバッテリーが空になっていて、手の届く範囲に設置した。
左岸沿いに進む。天気は素晴らしい。ベルーガがいる気配はない。急峻な岸際に建てられた家の煙突からは煙が上がっている。異国情緒。人影はまだない。水鳥が空を駆け抜けていく。ふと振り返るとアザラシが顔を出している。慌ててカメラを向けたがピントが合う前に水の中に潜って行ってしまった。
出発地点の港から2kmの地点から州立公園の保護区となって家がなくなる。その先は岩場が続く。ぽちゃんという音に振り返ると、アザラシが再び現れて、撮影。嬉しい。


3kmの地点には上陸に適した小さな砂浜がある。その先は上陸できなくもないところもあるが、基本的には上陸し難いところが続く。断崖の岩場にかかる滝がきらめいて眩しい。送電線の鉄塔が圧倒的な存在感で迫ってくる。5km地点から先は名実ともに断崖が続き、上陸できるところはほぼない。岸辺からそのまま落ち込んだ岩肌は底の見えない深みへと続き、果たして水深は何メートルあるのだろうか、と考えながら漕ぐ。
時刻は9時50分。既に満潮時刻も過ぎて、さて、潮の流れがどう変わるだろうかと思いながら漕いでいた。海風が強くなり始め、鏡面のようだった川面は今や波立っている。と、漕ぐ速度ががくんと落ちたことに気がついた。岸辺に目をやると、岸際の流れの緩いところで秒速60cmほどの速度で流れが出てきたことに気がついた。このサグネ川のフィヨルド地形は100kmあってそこまでは海水が流れ込む。そして満潮位と干潮位の差が3−4mある。考えればすごい量の水が毎日動いている。それは頭ではわかっていたので満潮時刻に向けて遡って、その後引き返すことを考えていたのだけど、考えていたよりもその変化は早くやってきた。そして僕が今漕いでいるところはサグネ川の中で最狭窄部だった。最狭窄部といっても川幅は1kmもあるのだけど、上流は3−4kmの幅があるから、ぐっと狭まり、さらに岸際は断崖だ。とにかく最狭窄部の先のBay Millまで漕ぎ抜けよう、とパドリングを早める。が、それよりも早く川の流れはどんどん早くなり、白波が立ち始めた。これはまずい、と必死で漕ぐ。流速はおそらく秒速1m近くになってきていた。歩く速度ぐらい。カヤックは本気で漕げば時速8−9km/hは出るのだけど、こんな白波が立っているところではスピードも出ず、焦る気持ちに反してゆるゆるとカヤックは進む。その時間はとても長く思えた。こんなところをカヤックで漕いでいるのは僕だけだった。
10:15に波立ったところを漕ぎ抜けてほっとする。Bay Millの手前部分だ。 昨夕いた展望台が見えている。川幅の広がったところには白い帆を張ったヨットが一艘。ベルーガは見当たらず。写真を撮ってから、さてと、と引き返すことにした。
流れに逆らうわけではないから先ほどよりは気が楽だ。とはいえ、先ほどよりもさらに波立ち始めたので慎重に進む。中に岩が隠れているわけではないのだけど、巨大な水がぎゅっと縮められて奥深くからザワザワと川全体がざわついでいる様子はやはり迫力がある。向かい風にもかかわらず、流れに助けられてカヤックを上下させながら進む。と先方からスピードを出したモーターボート2隻がやってきて横を駆け抜けていく。少しの時を経てその横波が伝わってきて、前方からの波に加えて、その横波とさらに左手の断崖に跳ね返って戻って来た横波の合わさった非常に複雑な波の中を漕ぐ。カヤックの下はどこまでも深い。波の上からカヤックの先端が波の合間に落ちるたびにアドレナリンが出ていたような気もする。

もっともっと怖い場所は過去に何度も漕いでいるので、その意味では絶対にひっくり返らない自信はあるのだけど、でも久々の流れに気持ちをうち勝たせるために、心の中ではひたすら気合を入れていた。また水温が低く、なのにドライスーツやウェットスーツを着ておらず、絶対にひっくり返れないということも頭の中にはのしかかっていて、波の見た目以上にドキドキしていた。自分が臆病であることを痛感する瞬間だ。潮の強い流れ。きっと新谷暁生さんがアクタン島に行った時はこの何倍も凄まじい潮の流れの中を行ったんだろうなと思う。新谷さんの「バトルオブアリューシャン」は冒険本の中で最も好きな本の一つだ。
最狭窄部を過ぎて波と川の底からの鳴り響くざわめきが落ち着き始めるとようやく気持ちに余裕が出てきた。ほ。もう大丈夫。下流方面の遠くを見るとカヤックが数隻いることに気がついた。ようやく他のカヤッカーも出てきたか、と仲間ができたようでちょっとほっとした。それまでは、上流で優雅な佇まいを見せていた白い帆の大きなヨットと、横波を作ってくれたモータボート2隻だけが僕の周りに浮かんでいる人工物だった。
川の流れと向かい風に挟まれながら、のんびりと下っていく。出発地点から3.5km程のところまで戻って来た時に、下流にいるカヤックを眺めていたら、霧が上がったのに気がついた。まさか!と思って目をこらすと、噴気があちこちで上がり始める。ベルーガだ!時刻は10:55。

プハー、ブフォー、という呼吸音も聞こえ始める。正直今回ベルーガを見ることは半ば諦めかけていただけに、大興奮。不安定なカヤックの上から、ズームし、できるだけぶれないように気をつけながら(しかしブレブレでしたが)動画を撮り続ける。たくさんいる。15頭以上はいたと思う。
上流部を向いて動画を撮っていたら、後方から呼吸音が聞こえたことに気がついた。振り向くとすぐそこにベルーガがいる!僕のカヤックを通り過ぎて距離5mのところで水面に頭を出して呼吸する。


2頭でペアを組んでいるのか、1頭が呼吸するとすぐに別の1頭もすぐ横で呼吸する。すぐに隣でまた2頭が顔を出す。すぐに後方から圧倒的な存在感を感じて、カヤックの下を見ると2頭のベルーガカヤックの下1mのところを通り抜けていく様子を見ることができた。


その時の動画はこちら(YouTube、1分)

下の動画は撮影している様子。その背景にもベルーガが出てくる。29秒過ぎからは、カヤックの後方でベルーガの呼吸が見られ、そのままカヤックの下をすり抜けていくのが見える。

怖さよりも出会えたことへの興奮が強くて、恐怖は何も感じなかった。かつて、口永良部島で一人シーカヤックをしていた時にイルカの群れにあったことがあって、あの時は背びれを見てサメか!と最初戦慄したのだけど、その点ベルーガは大きいけど白くてかわいいのが恐怖感を感じなかった理由なのかもしれない。通過後もカメラを構えて動画・写真を撮り続ける。気がつけばカヤックが10隻近く浮かんでいる。遠くからモーターボートもやって来始めた。ベルーガ達はすぐに通り過ぎていくのではなくてこの部分でのんびりと泳ぎ回っていた。
11:20に出発地点から3kmのところにある小さな浜辺に上陸した。眺めの良い岩場がある。気持ちのいい場所だ。

水筒の水をごくりと飲んでから、岩に座ってさらにカメラを構えてベルーガ達を追いかけた。

30分前までは、頭の中で何度もタドゥサックに行ったのですが、見たのはアザラシとミンククジラ1頭だけでした、というフレーズを英語にしてそれがぐるぐると回っていたのだけど、今は確かな充実感があった。
その後はのんびりと出発地点のL'Anse-de-Rocheの港へと向かう。

向かい風がきつくなり、川面は波立っている。出発した時は静かだった港も、たくさんの人がいた。12:15に無事上陸。

その後は片付けをしていると、このカヤックはインフレータブルなの?いいね、と老夫婦が話しかけてこられた。このカヤックを持っていると、毎回誰かしらからは興味を持たれている。来年春にカナダを去るのだったら、その際にこのカヤックを売ってくれないかとも言われたのだけど、多分日本に持ち帰ります、という話をしたりした。受付にいた管理人のおじさんがやって来て、どうだった、と訊かれベルーガに会いました、と話をしていたら、ところで、カヤックでの港利用料+駐車料金で11.5ドル、と言われ、それを支払った。
カヤックを畳んで片付けてから、キャンプ場に向けて出発。キャンプサイトに戻ってくると、再びカヤックを広げ、バケツに水を汲んできて洗い、塩分を落とした。他の道具も全部塩抜きして日に干して乾かす。その間にキャンプ場の温水シャワー(25セント/分)を浴びて自分自身も塩抜きした。キャンプサイトではリスが近くにやって来て昼寝を始めた。僕ものんびりと過ごす。

15時を過ぎて、車に乗って昨日訪れたCentre d'Interpretation et d'Observation du Cap-de-Bon-Desirというクジラ観察ポイントに向かう。あの広大なセントローレンス湾の景色の中でクジラを待ってぼんやりと過ごすという贅沢な時間の使い方を今日も行っておきたかった。7.8ドル払って中に入り、16時前に観察を開始。

昨日を踏まえ、今日はおやつと暖かい衣類(風が冷たく震え上がるため)、そしてキャンプ用の折りたたみチェアを持っていく。今日のセントローレンス湾は昨日よりも穏やかだった。

シーカヤッカーも何隻もいる。しばらく待っていると、ネズミイルカ(Harbour porpoise)がちらほらと現れ始めた。

カヤックのすぐ横にひょっこりと上がってくる。素晴らしい。

1時間半ほどのんびりと過ごして、そろそろ帰ろうかと思い始めた頃、岸辺からわずか15mの距離にミンククジラが姿を現わす。観察者一同大興奮。

でもそのミンククジラがまた姿を現したのは200m程離れての場所だった。その後はさらに別のミンククジラが現れカヤックの近くに背を出していた。



右手からは30頭以上のハイイロアザラシの群れが現れて、非常に賑やかになる。



すごくラッキーな日だった。
18時に出発してキャンプ場に戻った。キャンプ場では焚き火をしてのんびりと過ごす。夜は空が曇って星は見えなかった。22時頃テントに入ると大粒の雨が降り始める。タープを叩く雨音の心地よさ。ビール・ワイン・芋焼酎の酔いもあって、その後はあっという間に眠りについた。

休日 Tadoussacへ 岸辺からホエールウォッチング

朝4時過ぎに起きて準備を進める。昨晩早く寝たとはいえ眠い。4:45に家を出る。まだ真っ暗。季節は随分と進んだものだ。カーシェアリングのCommunatoの車(今回はPrius C(日本名:アクア))に乗って出発。目指すは、モントリオールから北東方向に直線距離で約450km離れたところにあるタドゥサックTadoussac)という小さな町。ここはサグネ川the Saguenay river)というセントローレンス湾に注ぐ大きな支流の河口にあり、この流量豊富な川からもたらされる栄養塩でプランクトンが大発生して、それを求めてクジラが集まる場所になっている。またこのサグネ川の河口から100kmはフィヨルド地形になっていて、切り立った岸壁が続く。そうした風景が広がる場所とのこと。職場でタドゥサックに行こうと思っているのですが、と話をすると、半分ぐらいの方が、いいところだよ行くべし、ベルーガ(シロイルカ)に会えるよ、誰々が最近行ってホエールウォッチングを楽しんできたらしい、等といったアドバイスをくれた。7日の月曜日はカナダは勤労感謝の日でお休み。三日間あるこの連休を利用して、この場所を目指すことになった。
タドゥサック全体の地図はこちら。

高速道路40号に乗って進む。夜明け前だけあってまだ渋滞も始まっておらず快適に進む。ケベックティーには8時に到着。昨年訪れたモンモランシーの滝を横目に見ながら運転していたら、急に相方のことをいろいろ思い出していろいろな思いがこみ上げてきたりした。ケベックティーから先は高速道路ではなくなるのだけど、この国道138号線は、急な登り下りが続くのだけど、とても雰囲気が良くて、運転していて楽しかった。
10時を過ぎてSaint-Fidèleにあるカナダ国立公園局(Parks Canada)の案内所に立ち寄る。レンジャーの方がパンフレット(PDF)を渡してくれ、どこに行けば良いか教えてくれた。保護区の種類はいろいろ混在しているのだけど、それはともかうとしてこの先はどこでもクジラを見ることができる可能性があるそうな。ちなみにこの施設はSaguenay-St. Lawrence Marine Parkの一環。期待を膨らませつつ、さらに先へと進む。
11時前にタドゥサックに渡るフェリーポートの近くに到着。そうこのサグネ川の河口には橋がかかっていなくて、毎日24時間運行している無料のフェリーに乗ることになる。
その手前1分のところに、先ほどの案内所で訪れるべし、と教えてくれたPointe Noireの展望ポイントがあるのでそこに立ち寄る。5.8ドルを払って中へ。サグネ川河口のビューポイント。サグネ川とセントローレンス湾の狭間の波立ち、潮のざわめきが良くわかる場所だ。遠くを眺めるとクジラ観察のクルーザーやゾディアックと呼ばれる船外機付のゴムボートが集まっている場所がある。きっとクジラがいるのだろう。でも望遠鏡・双眼鏡で眺めたけれどもよくわからなかった。

さて、フェリーに向かう。お昼前のこの時間は3隻のフェリーが行き来していた。フェリー自体は15分もかからない。そしてタドゥサックに12時前に到着。

三連休かつ夏最後の連休とあって流石に混んでいる。観光案内所に寄ろうと思っていたのだけど、たくさんの車と人に気を取られているうちに通り過ぎてしまった。まずは、職場の方から訪れると良いよ、と言われたLes Dunesと呼ばれる町から2kmほど離れたところにある砂丘地帯を目指したのだけど、そこにたどり着いたのだけど、そこがデューンズなのかどうか確信が持てないまま、一旦町の方に戻る。
街中はとにかく車・人・車・人だった。ちょうどお昼時でレストランが混雑している時間だったのも良くなかったのかもしれない。500km運転してきた後に混雑した通りをそろそろと通るのは結構ストレスで、早くどこかに車を止めたく、Centre d'Interprétation des Mammifères Marinsというクジラ博物館の前の駐車場に停めると6ドル取られた。博物館には入らずに、Pointe de l'Isletという岬についている散策道を歩きに行く。サグネ川の河口部分。ベルーガはいないかと眺めたけれど、残念ながら見かけなかった。このタドゥサックは干満の差が激しくて、干潮と満潮では3−4m水位が異なるのだけど、それもあって岩場のかなり高い位置に海藻がくっついているのが印象的だった。タイドプールにはオキアミのようなヨコエビのようなものがわんさかいる。これらがきっとクジラたちの格好の餌になっているのだろう。あとはそこらじゅうにカモメがいた。

さて、たくさんの人とジリジリとした太陽にヘロヘロになりつつ、次なる場所へと向かう。向かったのは25km離れたところにあるCentre d'Interpretation et d'Observation du Cap-de-Bon-Desirというカナダ国立公園局が運営しているクジラ観察ポイントだ。この場所も案内所でお勧めされたのだけど、よくよく考えれば、カナダ国立公園局の案内所でお勧めしてくれていたのは全部カナダ国立公園局絡みのところだった!料金は7.8ドルなのだけど、Pointe Noireで5.8ドル払っているので差額の2ドルで良いという。車を停めて、500mほど歩いて観察ポイントの岸際の岩場へと向かう。そこそこ人がいて、みな眼前に広がる広大なセントローレンス湾を眺めている。この景色は素晴らしい。とにかく広大で、この大きな大きな景色の中に佇んでいる、という確かな満足感がある場所だ。

岩場に座ってクジラが現れるのを待つ。風は冷たい。寒流がこのセントローレンス湾に流れ込んでいる影響で、湾内は年間を通して非常に水温が低い。今日は波立ってもいた。カヤックが数隻浮かんでいたのだけど、ほとんどの人がドライスーツを着ていた。
レンジャーのエマさんに、今日はベルーガを見ましたか?と質問すると、うーん、昨日は2頭見たけど、今日は一頭も見ていない、とのこと。ちなみに朝早い方がいいとか、夕暮れがいいとかあるか聞くと、いろいろな要因が重なるのでいつがいいとは言えない、とのこと。僕のイメージでは、頻繁にクジラが見られるものだと思っていたのだけど、どうやらそうでもないらしい。しばらく眺めているとひょっこりとアザラシが現れた。ハイイロアザラシとのこと。

その後、1時間半ほど粘ったのだけど、みたのはこれだけ。体が冷えて寒いし諦めて帰ろうとしたところ、黒い背びれが見えた。ミンククジラとのこと。動画に納める。少なくとも1頭のクジラを見た、というのは満足なのだけど、同時にホエールウォッチングはなかなか忍耐が必要だなぁと思ったりもした。
その後は、少し北部にあるMarine Environment Discovery Centreを訪れた後、ガソリンを入れ、引き返して、L'Anse-de-Rocheというサグネ川の河口から18kmの左岸にある小さな港を訪れる。ここはカヤックの出発地点となっているとのこと。ベンチ・東屋の他、レストランとトイレもある。受付のおじさんに話をするが英語は理解してもらえるのだけど全然話せず、ジェスチャーで何とか会話をする。
その後は、キャンプ場のあるフィヨルド・サグネ州立公園(Parc national du Fjord-du-Saguenay)に向かう。入口の受付でこの公園内からカヤックで漕ぎ出せる場所はあるかと訊くと、ベルーガ保護のために公園内からの出発は禁止されていて、カヤックをしたければ(先ほど僕が立ち寄ってきた)10kmほど離れた場所にあるL'Anse-de-Rocheに行ってほしい、とのことだった。手続きを済ませ、薪を買う(朝8時か9時から夜9時まで薪を買うことができます)。そして、入口すぐ横にあるキャンプ場のサイト32に到着。テント・タープを張って一息つく。
時刻は既に夕方の17時半を過ぎていたのだけど、この後、ミル湾(Bay Mill)にベルーガを探しに行くことにした。キャンプ場からは3kmの散策道を歩いて(自転車も可能)いくことになる。急ぎ足で出かける。森の中の散策道はリスがたくさんいた。
30分ほどでミル湾の展望台に到着。美しい木造の展望台がある。数名の方がいて、ベルーガを見たか訊くと、1頭遥か遠くにいるのを見たよ、とのこと。フィヨルドの中の美しい場所だ。うっとりする風景。ただし、ベルーガは出てくる気配がない。後からやってきた若い女性三人組の一人は、どうやらベルーガは最近海に戻ってしまってもうこの季節はこの場所には来ないということが(ここにある掲示板にフランス語で)書いてあるのですけど、とちょっぴり悲しくなることを教えてくれた。

結局小一時間粘って見かけたのは1頭のアザラシのみ。日が傾く中、キャンプ場に戻る。足場らにかける。ハリモミライチョウ(Spruce grouse)のメス2羽を見た。


暗くなる前にキャンプ場に戻ってきた。
その後は焚き火を開始。ソーセージ400gは一人で食べるには少々多過ぎた。サーモンミルクスープを飲みつつ、ビール・ワインを飲みつつ、夜空を眺めながら、焚き火を楽しむ。途中小動物がやってきて、何かと暗闇に目をこらすとそれはウサギだった。10時を過ぎてピクニックテーブルの上に横になって星空を眺めていると、ペガスス座が見えていることに気がついた。この秋の四角形を見ると嬉しくなる。双眼鏡を出して、四角形の先にあるアンドロメダ大星雲を眺める。はるか230万光年先にある隣の銀河系。久々にその姿をはっきりと見ることができて、やたらと嬉しかった。
意気揚々とクジラを見にやってきたものの、1頭のミンククジラを見ただけで終わった初日が幕を閉じた。