山スキー・登山靴購入

前日は遅くまで仕事をした結果、家に帰ってきたのが朝5時半だったので、昼ごろまで寝ていた。起きて職場に向かう。今日は何人も出てきていた。家に帰れず昨日と同じ服装の人もいる。夕方まで仕事をやって、薄暗くなってから職場を出た。その後、都内のアウトドアショップに向かう。

勤労感謝の日のこの日、山スキー板と雪山用の登山靴を買おうと思っていた。
今愛用している山スキーは2000年2月に秀山荘で購入したアトミックのツアーキャップガイドにジルブレッタ404ビンディングを付けたもの。大奮発して買ったツアーキャップガイドは硬めの雪に強いモデルで、当時の山スキーの中では相当軽量だったのだが重いジルブレッタを付けたこともあり総重量は4.5kgほどあった。ジルブレッタは登山靴・プラスチックブーツも使えるビンディング。今でこそ兼用靴を使う人がほとんどだが、昔は兼用靴は非常に高価だったこともあり、お金のない大学生には買えるはずもなく、まずは革登山靴で滑れるように練習するのが基本だったので、このビンディングにお世話になった人は多いと思う。
雪山用の登山靴は、最初はカモシカスポーツオリジナルの皮革の重登山靴を使っていたのだが、夏山の藪こぎで酷使した結果、コバが擦り切れてしまってうまくフィットしなくなってしまったので、さかいやスポーツでセールで半額の2万円ちょいで売っていたサロモンのスーパーマウンテンガイド(写真の右側の紺色の靴)を2000年末(購入時期・価格ともやや記憶が曖昧)に買ったもの。革なので寒いは寒かったが、靴底にはスチールが入り相当しっかりとした構造で、足首はしっかりと保持してくれるものだった。ただ構造上の問題か、靴ずれを起こしやすく、長期間の山行では足がボロボロになったことも何度もあったのだが、そこそこ歩きやすかったのも確か。購入以降、雪山ではずっと使ってきた登山靴だ。

この山スキー+登山靴で、ず〜っとスキーをしてきた。登山靴で滑るというのは、そこそこ難しいものだと思う。いや、コンディションが良い中でアグレッシブに滑らないならさほどでもないのだが、コンディションが悪い中でのスキー、スピードを出すスキーではかなり難しくなる。大学の部活では、まずは普通のスキー靴で練習した後に、一定程度滑れるようになったと認定されると翌日から登山靴で滑る練習を始める。思い返せば懐かしい1999年の12月に初めて登山靴でスキーを滑った。蔵王で行われた部活の12月合宿(スキーの訓練合宿)ではまずはスキー靴で練習した。久々のスキーに最初は慣れないでいたが、エッジをしっかりと入れるとスピードを出しても安定しているという感覚が初めて身につき、スキーが俄然上手くなり自信がついたこの合宿。2日目にはスピードを出すことに爽快感を覚えるようになり、下手くそなりにかっ飛ばすことに精を出していた。3日目に無事普通のスキーはそこそこできると認定され、4日目から僕は登山靴で滑り出したのだけど、その日の恐怖はよく覚えている。その日の天候は上々。気持ち良いスキー日和のはずだった。リフトを降りてすぐのちょっとしたアイスバーンで恐怖のどん底にたたき落とされる。全く制御が出来ない気がした。前日までスピードを出して気持ちよく滑っていた斜面は恐怖に怯えながらそろりそろりと滑り降りるしかなかった。力がスキー板にうまく伝えられず、板の制御が思うように行かない。これは難しい、と思いつつも滑るしかないので、恐怖心と向かい合いながら黙々と練習した。足首を固定し膝をぐっと曲げ板に少しでも効果的に力が伝わるように練習した。また力の伝達が弱い分、より正確に雪面にエッジを入れられるように意識し続けた。その日の終わりには何とかそこそこ滑れるようになり、翌日以降も練習を進め、やがて登山靴スキーに自信を付けて、再びスピードを出すことに爽快感を覚えるようになった。
以降、他にスキーも持っていないので、山スキーに限らず、ゲレンデでもず〜っと登山靴で滑ってきた。でも、時代は進んで、そこそこ安い兼用靴もたくさん出てきて、今や登山靴で滑る人なんてほとんどいない。
楽しく滑りたいなら、断然兼用靴なのだと思う。実際釧路にいた時に兼用靴を借りて滑ったことがあるが、抜群の安定感にこれなら普通のスキーと変わらないと思ったものだった。ただ、僕にとっての山スキーの入口は、滑りを楽しむというよりは、雪山登山の一環だった。初めて山スキーに行った時、スキーを履いて歩くってこんなにも楽しいものなんだと思った。深雪地帯でのスキーの機動力は感動的だ。スキーは滑る以前に、歩くための道具なんだと。ワカンでは手に負えない場所でも、スキーを履くとサクサク進める。その感動が今も山スキーの原体験になっている。足元は、雪が深ければスキーかわかん、普通に歩けるところでは普通に歩き、凍りついた場所ではアイゼンを付ける。そんな登山の一環としてとらえていたので、歩きにくい兼用靴で行く、というのがどうもしっくりこないところがあった。そして登山靴でスキーを滑る練習を続けていたからこそ、ショート山スキーを持っていった大峰山脈の縦走は成功出来たと思っている。
そうは言っても、本当は開き直って、山スキーの場合は山スキーがメイン(実際はほとんどがそうなのですが・・・)とすればいいのだと思う。そして兼用靴を買った方がはるかに滑りは楽しめるのもわかっている。
ただ、やっぱり登山靴スキーにはほこりを持っている。釧路にいた時に、羅臼山岳会のお散歩会と称した山スキー山行に何度か参加させていただいたが、僕が登山靴で滑っているのを見て、兼用靴で山スキーを始めた若い人は珍しそうに見ていて、ベテランの方は懐かしそうに見ていた。大ベテランの方が、俺もねぇかつては登山靴で滑っていたけど、もう無理だなぁ、兼用靴でないと足が持たないなぁという言葉を聞いた。併せて一緒に滑っている時に「東京もんのくせに、しかも登山靴なのにスキーが上手いな!」というほめ言葉もいただいた。それは素直に嬉しかった。自分も今やめてしまえば、もう登山靴で滑ることはないだろう。それはいつでもできるから、滑れる間はこれにこだわってみようと思っていた。

前段が長くなった。
3年ほど前から新しい靴と山スキーを欲しいとは思っていたのだが、なかなか買い換える勇気もなくて今に至っていた。まずは靴を買って、スキーは来年でも考えるかなぁと考えていたのだが、その転機は先週訪れた。
ヴィクトリアに山スキーのチューンアップを出しに行った後、池袋の秀山荘に行き、山スキーを買うならまた秀山荘で買うかなぁ、とりあえず来年の参考にでもするかなぁと山スキーを眺めていた際に、ジルブレッタ500(404の後継機種)が置いていなかったので、ジルブレッタ在庫切れですか?と訊いてみた。すると、ジルブレッタは昨シーズンで入庫打ち切り、もう日本には入ってきていなくて、国内にあるとしたら昨年の在庫分しか残されていない、多分生産も打ち切られるはず、ということを知る。ガーン(>_<)知らなかった。やばいな、登山靴スキーを継続したいなら早急に手に入れなければ!という思いに駆られる。ちなみに秀山荘には残っていないとのこと。今の兼用靴は歩きやすさはどうですか?と訊くと、随分と軽くはなったけど、歩行性能よりも滑りを重視する傾向が強まり、しっかりと固定されるスキー靴にどんどん近づいていて、以前より歩きやすくなったとはますます言えなくなっていますよ、寂しい話ですけどね、とのこと。
その気になれば、今使っているジルブレッタ404を他の板に付ければいいのだけど、まだ今の板を完全に捨てたくはなかったし、現行モデル(だった)ジルブレッタ500の方が断然軽いので、最後にジルブレッタ500を手に入れておきたかった。正直、兼用靴を買って快適に山スキーができる最新のセットも考えないわけではなかった。登山靴にこだわっていると言いつつも、その誘惑はあった。でも、もう手に入らなくなるかもしれないという恐怖感から、頭は完全に登山靴スキー購入モードに入っていた。

先週一週間は忙しかったので、今日になってようやくアウトドアショップに電話で確認する。結果、ICI石井スポーツの登山本店にSサイズの最後の一個(店頭表示に使っているもののみ)が残っていること、さかいやスポーツには、Sサイズ、Mサイズともにまだ在庫があることを知る。まだ日本にジルブレッタ500が残されていたことを感謝した。

はやる気持ちを抑えて、まずはICI石井スポーツに見に行った。そして、まずは登山靴を買うことにした。今の登山靴ももう12年履いているので、壊れるかもしれないという思いがいつもあって、新しい靴にしたかった。スカルパのモンブランGTXに目を付けていたのでまずはそれを履く。履き心地上々。まずこれはすごくよかった。つづいて、ザンバランのエクスパート・プロGTを履く。これも履き心地はまずまず。足首はよりしっかりと保持される。う〜ん、と悩みながら店員さんと話をする。まず保温性。保温材としていずれもゴアテックスデュラサーモを使っているが、モンブランGTXは足底部分には入っておらず、保温性はエクスパート・プロGTの方が上。厳冬期の八ヶ岳等寒いところでは本当に足の感覚がなくなるので、保温性はあった方が断然いい。足首の保持力はエクスパート・プロGTの方がよりしっかりしている一方でモンブランGTXの方が動かしやすく歩きやすそう。ただ山スキーに使うならエクスパート・プロGTかなぁと思った。裏のソールはどちらもビブラムソールだが、モンブランGTXは親指に力を入れやすい登攀に適したパターン、エクスパート・プロGTはクラシックなパターンで、モンブランGTXの方が好印象。色合いはエクスパート・プロGTの方が好きだった。
う〜んと悩んだが、ザンバラン エクスパート・プロGTに決定!5万円強の買物だが、長く使うものなのでいいだろう。そのまま山スキーコーナーに行き、ジルブレッタ500に付けられることを確認した。店員さんは冷ややかな目。登山靴でなんか滑りにくいですよ、とアドバイスをくれたので、それはよくわかっていますが、13年間ずっと登山靴で滑っているんですと話をした。

さて、山スキー板。これは正直あまり調べていなかった。ICI石井スポーツ登山本店には、いくつか板があったが、あまり魅力的な板ではなかった。店員さんも、登山靴でならそれほど速くは滑れないでしょうから、軽いこの板でいいのでは?と言った雰囲気。確かにそうなのだけど、どこか魅力を感じられない。1つだけ店頭表示品として残っていたジルブレッタ500をとりあえず確保しておいていただいて、より滑りに適した板が多数あるというICI石井スポーツ神田本館に見に行った。
店内にはずらりと大きくて幅の広い板が並ぶ。軽い板はほとんどない。これまでジルブレッタ404で滑っていて・・・という話しかけを店員さんはさえぎって、今はダイナフィットのTLTビンディングばかりです、兼用靴も今のものはTLT対応にしないと売れないので、ほとんどがTLT対応になっている、と話されていた。見せてもらう。軽いしワンタッチであるし、これは確かにいい。山スキー自体を物色するのが久々だったのだが、もうディアミールですら過去のものですと言い切る店員さんに、時代の変遷を痛感した。
また、ガリガリのバーンをトラバースするのがそれほどないのであれば、断然幅の広いファットスキーの方が良いと話されていた。その方が、新雪だけではなく、モナカ雪という悪雪の時も全然問題ないという。さらに並んでいるバックカントリー向けのスキーの多くは、ロッカーがかかっていて、新雪でも板先が雪面の上に出る構造になっているという。昔の細いタイプの板なんて、もう使っている人なんていないですよ、山スキーの道具や考えも変わり、今は滑りを楽しむ時代に変わったんですよ、と話されていた。
隣にいた別の店員さんは、別のお客さんに、「自分はレースをしてきたが、何故今山に滑りに行くのか、それは滑りを楽しむためです」と話されていた。わざわざ山に出かけるのは、ゲレンデにはない滑りを追求するためのもの、そのために長く太い滑りを楽しめるスキーで行くとのこと。そんな話を聞きながら、滑りも楽しむが雪山登山の一形態としての位置づけが強くあった山スキーと、新たな滑りを求めてゲレンデの外に出て行くというバックカントリースキーでは、同じ道具を使うと言っても実は随分と思想が違っていて、その中で今は圧倒的にバックカントリスキーヤーの方が多くなっていて、旧来の山スキー屋は減り、それに伴ない道具もバックカントリースキーヤー向けに変化していったことを痛感した。そんな中にあって、登山靴スキーをする、でもその中で滑りを追求したい、という話をしてもいいアドバイスが得られるとは思えない。確かに今の新しい道具に支えられた機能的なファットスキーは魅力的だった。でも今回はやっぱり登山靴スキーにこだわりたいとの思いを強くした時だった。
店員さんの話を聞きながら、いろいろ見たのだが、結局ここに置いてある板は、細くても95mm以上だった(と思う。探せば細いのもあったのかもしれませんが・・・)。店員さんは絶対に100mm以上にした方がいいということだったが、ジルブレッタ500のクトー(スキーアイゼン)は90mm幅なので、それだと付けられない。ここにはこれぞという板はなかったけれども、いい勉強になったと思いながらICI石井スポーツ神田本店を出た。
さて、そのままICI石井スポーツ登山本店に戻っても良かったのだが、せっかくなのでとさかいやスポーツに行く。ジルブレッタは在庫があると再度確認した後、スキーを眺める。ブラックダイヤモンド、K2、ハーガンと見慣れた板がある。90mm以下で、いい板がないかと見ていると、MOVEMENTのLOGIC-X(PDF)という板があった。幅が88mmのセミファットスキーだ。ロッカーはないノーマルタイプ。1本あたり1kgという超軽量だが、バーンでもあまりばたつかないしっかりしたモデルだという。定価が9万円弱するが2011年モデルということで6万5千円で売っていた(2012年モデルは定価8万4千円で7万5千円で売っていた)。長さは168cm。これだ!と思った。
その後はブラックダイヤモンドの板との比較をいろいろした後、店を出る。ICI石井スポーツ登山本店に行き、ザンバラン エクスパート・プロGTを5万2千円ほどで購入した。その後さかいやスポーツに戻る。
途中で心の支えが欲しくなって相方に電話する。「登山靴にこだわる必要なんて今更ないんじゃないの」「でも、何を言ってもその状態だとどうせ買うでしょう」とよく状況をおわかりの様子。ちなみに相方もジルブレッタ404を付けたスキー板を持っていて、登山靴でスキーを滑る技術を持っている。ここはしょうがないが認めてもらおう。
さかいやスポーツに戻り、さらにいろいろ調べた後、MOVEMENTのLOGIC-Xの168cmとジルブレッタ500のSサイズを購入した。ちなみにSサイズは靴底長が265-315mm、Mサイズは295-345mmに対応していて、ザンバラン エクスパート・プロGTのサイズ42(26cmぐらい)で29cm、ずっと使ってきたサロモンの靴で31cmだった。クトー(は取り置き)とシールは後で買うことにしたが、結局板とビンディングで10万円弱のお買いもの。靴も合わせると15万円!大散財!まあでも仕方がない。

登山靴スキーが出来なくなってしまうかも、という危機意識から急遽買ってしまった山スキー+登山靴。これまで使ってきたものは13年程使ったものなので、買い替え時なのだとは思ってはいたものの、10日前には買ってしまうことは想像できなかったものだ。まあでも仕方がない。
山道具は年々進化していると思う。その進化が進み、新たな選択肢が広がる一方で、残念ながら選択肢が狭まってしまった部分もある。今時これから登山靴スキーをしようなんて普通考えないと思う。それを考えるとそれはしょうがないのかなという気は確かにする。そんな中でよくジルブレッタはこれまで作り続けてくれていたのだと思う。
ただ、雪山登山のフレキシブルさが一つ失われつつあるのは残念なところ。歩くスキーを考えた場合、やっぱり兼用靴しかないのは残念だ。テレマークスキーもプラスチックでガチガチに固められてしまったスキーになってしまった今(もちろん、昔ながらの革靴で滑っているテレマーカーもいらっしゃいますが)となって、昔ながらの素朴で軽快な山スキーをしたくて登山靴が付けられるビンディングを手に入れたい人は急ぐべし。ICI石井スポーツ登山本店の在庫はあと1つだけ。さかいやスポーツの在庫もあといくつあるのかわからない。今後登山靴が付けられるビンディングが出てくるとはあまり思えないし。

スキー板が届けられるのは1週間後。これからの10年間、その道具を大事に使って行きたいと思う。