秩父へ

眠りは浅かった。朝起きると喉の調子は相変わらず今一つだが、熱は無い。何とかなるかなぁーと思って、山を歩く準備をした。家を出て、地下鉄に乗って池袋へ。池袋発6:15の飯能行の準急に乗った。
今日は沢に行く予定だったのだけど体調不良で中止とすることになったのだが、風邪は治っていないのだけどそれほど悪くもなく、またせっかくの連休を丸々家で過ごすのも嫌だったので、この機会にと、かつて何度も訪れた秩父の森を再訪することにした。
目指す場所は、秩父演習林の中にある入川支流の矢竹沢。さらに矢竹沢の上流の支流の奥にある名もなき滝を目指す。その場所を訪れるのは2004年10月以来か。そこがどういう場所であるかは、同年7月に書いたとおり。僕にとっては思い入れのある特別な場所だ。
飯能駅西武秩父行に乗り換え、8:09に西武秩父駅に到着。素晴らしくいい天気。8:25発の川又経由中津川行のバスに乗る。バスはのんびりと奥秩父を目指す。あちらこちらの川を渡る橋からは、フジの花が美しかった。かつて建設中だった大滝ダムはずっしりと水を溜めていた。時の経過を痛感する。
9:25に時間どおり川又に到着。新緑が美しい。かつて眺めた風景。通い詰めていただけあって、懐かしさにかられる。
さて出発。演習林の学生宿舎を通り過ぎて奥へと向かう。入川の流れが清々しい。夕暮キャンプ場を過ぎて、管理釣場の管理棟の先から演習林の林道に入り始める。釣り客が多数。みな嬉しそうな顔をしている。この新緑に包まれた爽やかな渓谷に心洗われているよう。川面を見るとイワナかヤマメがゆらゆらと泳いでいる。心がときめく風景だ。
10:15に標高760mの矢竹沢の入口に到着して、沢タビに履き替える。どのぐらい覚えているかなぁと思いながら矢竹沢の遡行を開始!段差のある流れを上がっていく(上の写真)。下流部は斜面崩落があって結構変わっている。かつてはどの淵にどんなイワナがいるのか大体覚えていたのだけど、そうした淵の多くが埋まってしまっていた。ちょっとしたミニゴルジュ帯は右岸が崩れてザレた斜面を登る。その先左岸を大規模に植林しているところは陽があたってまぶしかった。
その先に進むと、かつてとそれほどは変わらない淵が待っていた。嬉しい。でもイワナはあまり見当たらない。かつてここで川虫をたくさん採ったなぁ、ここで疲れて寝てしまったなぁとか、そんなことを思い出しながらゆっくりと歩いていく。
そして、かつて野外実験水路を設置していた場所に到着!11:05。懐かしかった。置きっぱなしにしていたコンクリートブロックは撤去されていた(すみません)。かつてはここで早朝から深夜まで作業していた。行動観察のためにここに泊りこんで二時間おきに調査したこともあったっけ。大学4年生の頃はバイクを持っていなかったので、実験のセッティングが長引いて深夜1時を過ぎてからここから真っ暗な林道を5km歩いて自炊宿舎に戻ったことも何度かあった。台風で破壊しつくされたこともあったし、台風接近で急遽ここまでやってくる途中でクマに出くわしたこともあった。そんないろいろなことがフラッシュバックした。

このすぐ上の標高930m地点に堰堤があって、そこまで林道が付いている。堰堤を越えて先に進む。この上は少し沢が荒れていた。かつてイワナがいた淵のいくつかは埋まってしまっていた。28cm(か29cm)のイワナを釣上げた淵も左岸が崩れてそれほど素敵な淵では無くなってしまっていた。よく生えていたワサビも見当たらないし、ちょっぴり寂しさが募った。
しかし、天候はいい。また昔の面影のままの場所もある。木漏れ日が川面を照らす。途中サンドイッチを頬張った。その後もゆったりと歩いていった。
標高1020mの支沢には11:45に到着。左岸から流入するこの沢の入口には、5m程の高さのトイ状の滝がある(写真)。そしてこれまでは一度たりとも巻いたことはなく、毎回この滝を登って先に進んでいる。難しいわけではないのだけど、中間部がわずかに細かいところがあるので久々だとどうだろうかと少し緊張気味。でもきっと大丈夫、と思って滝に取りついた。今シーズン初の滝登り。特に問題なく無事クリアー。この奥を訪れる資格を得たような気分になって嬉しかった。

水流が細くなった沢を歩く。途中一旦水が涸れる。その奥にイワナがいる淵があったのだが、今日は見当たらなかった。ついに途絶えてしまったのだろうか。シオジ・サワグルミの林を越えて出てきたのは、水量は多くはないが美しい滝(写真)。12:05。新緑に映え、キラキラとした水しぶきが舞っている。再びこの場所に来れたことが嬉しかった。

今回の矢竹沢訪問の全容を記録した動画はこちら(YouTube、長さ11分!)
※矢竹沢にノスタルジーを持つごく一部の人向けの動画です。長いです・・・


この滝は、かつて実験に使う川虫を集めるために矢竹沢を上から下まで様々なところを探し回ったときに見つけた滝だ。秩父の森の調査で行き詰まったり、疲れが出ると、この森の一角のぽっかりと開いた場所にやってきては、森とそこから流れ出す川の流れを見て、元気を出していた。そして、今の仕事の内々定を頂いた日、この場所を訪れて対峙する若いシオジの樹皮に「志」と鉈目を付けたのだけど、それがどうなっているのか今回は見てみたかった。探すとすぐに発見できた。かつて、自分はここにいて、ここで、この奥秩父の森の中で自然を学んでいったんだなぁということをあらためて感じるひととき。嬉しさと、懐かしさと、そしてこれからもしっかり頑張っていこうという身が引き締まる思いがした。そんな様子を撮ってみる(YouTube)。またいつか、ここを訪れよう。

この場所で昼食にした。お湯を沸かしてカップラーメンを作る(YouTube)。美味しい。この場所に根を張って生き続けるシオジに敬意を表して、久々ハーモニカを吹いた。久々過ぎて全然うまく吹けなかったけど、それもまぁしょうがない。今後精進しよう。

13:20に下山開始。バスは16:36なので急いでもしょうがない。ゆっくりと下る。途中、定点観測に使っていた淵で20cm程のイワナを発見。すぐに身を隠してしまったので写真に撮ることはできなかったけど、この沢にイワナが息づいているのを確かめることができて嬉しかった。
13:55に標高930mの堰堤に戻ってくる。時間があるのでここで少しのんびりすることにした。持ってきた赤ワインを沢水で冷やす。その間に沢タビから靴に履き替えた。しばらくして冷えた赤ワインを頂く。美味しい!ホッとした気持ちと、新緑の美しさと、と矢竹沢に来たという満足感が合わさって、大して飲んでもないのにすっかり酔っ払ってしまった。堰堤に横になって空を眺める。梢の間を白い雲がゆっくりと流れていった。
14:25に出発。この先は作業道(林道)を歩く。かつてイノシシに会っ(てこちらに向かってきたのでビビっ)た場所だ。よくサルが集まっていた場所でもあるので、いないかなぁと探したがいなかった。本線に合流しテクテクとのんびりと下る。トロッコ軌道跡に向かう散策路と合流し、15:00に矢竹沢入口まで戻ってきた。
その先もテクテクと歩く。本当にこの新緑の季節は気持ちがいい。見上げると山桜が美しい。素敵な季節だなぁ。管理釣場では釣上げている瞬間を目撃。よかったよかった。途中、オトシブミを見つける。不思議な生命の営み。そして15:55に川又の集落まで戻ってきた。
16:36のバスに乗って西武秩父駅に戻る。ワインの酔いもあって爆睡。ただ途中渋滞していて、17:36到着予定が、駅に着いたのは18:20だった。18:25発の特急は満席で、18:33発の飯能行の各駅停車に乗ったが、満員でずっと立っていた。飯能駅で乗り換え。こちらも混んでいて結局西武秩父駅から池袋駅まではずっと立って帰ってきた。
夕食を食べていなかったので、コンビニで買って帰宅。遅い晩御飯を頂いた。
久々訪れた奥秩父の矢竹沢。沢登りの対象にはならない何の変哲もない沢だけど、僕にとっては大学の研究生活での多くの時を過ごした大切な場所だ。その沢は今日も輝いていた。それが嬉しかった。また機会を見つけて訪れることができればと思っている。